こんにちは、UI/UXデザイナーの田原です。
資格weekということで、私からは「HCD-Net認定人間中心設計専門家・スペシャリスト」の認定試験について書いていきます。
約1年前に書いた前編では、HCD(人間中心設計)の説明や試験の流れを書きましたが、今回の後編では、受験に際し必要なコンピタンスの説明や、審査書類の話をします。
続きものにしたのに、肝心なところで引っ張ってしまい大変申し訳ないです。。 今回の内容だけでも読めます!
過去、HCD専門家の長田さんからも紹介の記事がありました。
一年経ち、一部コンピタンスの内容が変更になった箇所もあるので、その部分にも触れながら、人間中心設計の認定試験を受けてみた!の体験レポートの続きを書いていこうと思います。
※本記事の情報は2022年度に公開されたものです。
各コンピタンスについて
まず、コンピタンスについておさらいです。
そもそも、コンピタンスとは…?
人間中心設計(HCD)のプロセスを実践するために必要となる能力・技能・知識のことです。
このコンピタンスは、UXデザイン、サービスデザイン、ユーザビリティ評価などの実践にも用いられます。
うーん、分かるような、分からないような……。
というわけで、今回はこの各コンピタンスについて、ブレイクダウンして説明していきましょう。
試験を主催する人間中心設計推進機構(HCD-Net)によれば、コンピタンスは大きく以下の4つに分類されます。
プロジェクトにおいて人間中心設計のプロセスの各活動を実施して適切な成果物を産出できる能力
【2】 B: プロジェクトマネジメントコンピタンス
プロジェクトにおいてHCDプロセスを推進しマネジメントすることに関る能力
【3】 C: 導入推進コンピタンス
組織に対してHCDを導入し普及・推進することに関する能力
【4】テクニカルコミュニケーション能力 ※ 2022年度では採点項目ではなくなりました。*1
HCDのプロジェクト及び活動を円滑に実施するために必要となる基礎的なコミュニケーション能力
典拠:HCD専門資格コンピタンスマップ(2022年度).pdf より作成
こう書かれると、なんとなく分かるような……?
つまり
【1(A)】は【HCDにおける基本的な能力】
【2(B)】は【HCDにおける基本的な能力】を持った上で、それを【マネジメントできる能力】
【3(C)】は案件に関した話ではなく、【HCDをもっと大きな規模に普及させる能力】
そしてそれらをきちんと説明できる ことが、【4】 テクニカルコミュニケーション能力
といったところでしょうか。
そして各コンピタンスは、複数のコンピタンス項目から成り立ち、それらをまとめてA群、B群、C群といった呼び方をしています。
前編でも説明しましたが、認定資格には以下の二種類があります。
- 人間中心設計専門家(認定HCD専門家)
- 人間中心設計スペシャリスト(認定HCDスペシャリスト)
そして、認定試験で記載する項目の必要数は、
- 専門家 : A群から7項目以上 + B・C群から合計3項目以上(B・C群から各1項目必須)
- スペシャリスト : A群から6項目以上
の記載が必要になります。
これで、各項目の記載内容の差についても、理解いただけたのではないでしょうか?
つまり スペシャリスト は、HCDプロセスを理解して実行できる人 (AができればOK)、
専門家 はその上でマネジメント、育成もできる人 (AもBもCもできる!) 、ということです!
とにかく専門家……すごい!!
ようやくここまで理解して、私は「専門家」に関する記載を諦めて、「スペシャリスト」で勝負することにしました……笑
というわけで、以降からB群・C群の説明は割愛です。
なぜならA群(基本コンピタンス)の説明だけで、かなりボリューミーになるからです…!
A:基本コンピタンスについて
それでは早速行ってみましょう!
A群:基本コンピタンス、全体の概要です。
- A1. 調査・評価設計能力
- A2. ユーザー調査実施能力
- A3. 定性・定量データの分析能力
- A4. 現状のモデル化能力
- A5. ユーザー体験の構想・提案能力
- A6. 新製品・新規事業の企画提案力
- A7. ユーザー要求仕様作成能力
- A8. 製品・システム・サービスの要求仕様作成能力
- A9. 情報構造の設計能力
- A10. デザイン仕様作成能力
- A11. プロトタイピング能力
- A12. ユーザーによる評価実施能力
- A13. 専門知識に基づく評価実施能力
うーん、ボリューミー!
そこから一つずつ内容を噛み砕いていきましょう。
人間中心設計プロセス(HCDプロセス)に基づく調査、評価の計画を企画提案できる能力のこと。
A2.ユーザー調査実施能力
ユーザーの利用状況や本質的要求などを把握するために、現場でユーザーの利用文脈調査を適切に実施できる能力のこと。
A3.定性・定量データの分析能力
収集した定性的/定量的データを、目的に対して適切な手法を用いて分析し、ユーザーの特性を把握できる能力のこと。
A4.現状のモデル化能力
ユーザーの利用状況や本質的欲求などについて、調査データや分析結果に基づいてモデル(構造)化できる能力のこと。
A5.ユーザー体験の構想・提案能力
製品・システム・サービスにおける理想的なユーザー体験を構想・提案できる能力のこと。
A6.新製品・新規事業の企画提案力
ユーザー理解から生まれた視点、価値から生まれた新たなコンセプトを、関係者に提案し実現に向けて合意をとれる企画提案能力のこと。
A7.ユーザー要求仕様作成能力
ユーザー調査データや分析結果および構想・提案したユーザー体験を用い、ユーザー要求仕様として表現できること。また、それらに対し適切な優先順位、評価指標を設定できること。
A8.製品・システム・サービスの要求仕様作成能力
ユーザー要求仕様をもとに、製品・システム・サービスに必要な機能を定義し、それらを要求仕様として表現できる能力のこと。
A9.情報構造の設計能力
製品やシステム、サービスの使用に際し、ユーザーが情報を理解しやすく、またユーザー自身が情報を探しやすくなるような構造を、要求仕様に基づいて設計できる能力のこと。
A10.デザイン仕様作成能力
ユーザー要求仕様・システム要求仕様・情報構造設計をもとに製品・システム・サービスをデザインでき、仕様あるいは実体として表現(視覚化)できる能力のこと。
A11.プロトタイピング能力
製品・システム・サービスの企画や開発の途中段階で、ユーザーの要求仕様や製品・システム・サービスの要求仕様を、設計案やデザイン案として提示するためのプロトタイプを作成できる能力のこと。
A12.ユーザーによる評価実施能力
製品・システム・サービスの企画や開発の初期段階、または途中段階でユーザーに評価対象を提示することにより、評価対象がユーザーに適しているかどうかを判断するためのテストを適切に実施でき、プロジェクトの目的に合わせ結果を適切に分析できる能力のこと。
A13.専門知識に基づく評価実施能力
人間中心設計(HCD)および関連する専門知識を用いて、製品・システム・サービスのユーザビリティ、ユーザーエクスペリエンス、ユーザーインタフェースなどの良し悪しの判断・指摘ができる能力のこと。
引用元:HCD専門資格コンピタンスマップ(2022年度).pdf より一部抜粋
上記をよく読んでいただくと理解できるかと思うのですが、実は、A.1~A.13の流れは、繋がっています。
前編で触れた、HCDプロセスに則っているからです。
HCDプロセスの図はこちら。
HCDプロセスにおいて、各コンピタンスは以下のように分類されます。
①現状調査を行う
A1. 調査・評価設計能力
A2. ユーザー調査実施能力
A3. 定性・定量データの分析能力
A4. 現状のモデル化能力
②現状分析を行う(As-Is)
A5. ユーザー体験の構想・提案能力
A6. 新製品・新規事業の企画提案力
A7. ユーザー要求仕様作成能力
③理想的な体験を設計・提案する(To-be)
A8. 製品・システム・サービスの要求仕様作成能力
A9. 情報構造の設計能力
A10.デザイン仕様作成能力
④実際制作したものをユーザーテスト等で検証する ※
A11.プロトタイピング能力
A12.ユーザーによる評価実施能力
A13.専門知識に基づく評価実施能力
※: A11-13は、上記工程に留まらず各活動それぞれで実施する場合もあります
各コンピタンス項目を、先ほどの図にプロットするとこちら。
コンピタンスをこの4つの工程に分類すれば、だいぶ内容を理解しやすいのではないでしょうか?
つまり①〜④の工程に関する業務をしたことがある方は、なにかしらのコンピタンスを発揮していることになるのです!
その経験を、認定試験では審査書類にまとめて提出することが必要になります。
なお、審査書類には実際受験者が対応したプロジェクトを記載する必要があるため、応募資格として、「人間中心設計・ユーザビリティ関連従事者としての実務経験が、5年以上あること。」 が条件となります。
受験を考えられる方は、一度以下リンク等で受験資格を確認されてみてください。
審査書類の記載内容と注意点
資格取得の為に提出する審査書類では、この1~13のコンピタンス項目が実際のプロジェクトにて発揮されている事を、各プロジェクトごとに、以下の観点で記載していく必要があります。
1. 目的と対象
2. 体制と実施内容
3. 工夫とアウトプット
この時点でお気づきかと思いますが……とにかく書く項目がたくさんある!
けれど、コンピタンス13項目全てを埋めなければいけないということではありません。
記載するプロジェクトの数は最低でも3つ。
その記載するプロジェクトの中で、1プロジェクトに対して1コンピタンス以上記載し、スペシャリストの場合は全プロジェクトを通して最低6コンピタンス記載することができれば審査書類としては条件を満たすことになります。
例えば、
プロジェクト①で「A.3/A.7/A.9/A.10」を記載
プロジェクト②で「A.1/A.2/A.3/A.9/A.10」を記載
→上記の場合 「A.1/A.2/A.3/A.7/A.9/A.10」 の6項目で、コンピタンス数の最低条件クリア!となります。
けれどこの、各コンピタンスを最低6項目、という点が意外と難しい。
同じ業務をしていると、複数のプロジェクトで同じコンピタンスについては記載できると思うのですが、それでは記載できるコンピタンス数が増えず、審査対象にはなりません。
また記載する全プロジェクトを通して、1項目しか記載できないコンピタンスがあることも認められてはいますが、その場合少しリスクがあります。
例でいうところの、 「A.1/A.2/A.7」 がその状態に当たりますが、記載した内容がコンピタンスを発揮していないと判断された場合、それだけでコンピタンス数が規定を満たせず、不合格となってしまうのです!
より合格の確率を上げるためには、多くのプロジェクトでさまざまなコンピタンスを埋めることをお勧めします。
なので、
いかに幅広く、①〜④の多様な工程に携わって業務を行えているか、ということが、本資格の受験時に大切になるポイントです。
ちなみに、同じコンピタンスに関して複数のプロジェクトで記載した場合、一番内容の良いものが採点対象となるそうです。強みは強みとして、同じ経験を積んでいくことも大切ですね。
本資格の受験に向けて
コンピタンス、記載内容、そのカウント方法を理解した上で、
一度ご自身が携わってきたプロジェクトを振り返り、コンピタンス数が足りなければ、今まで経験できていない分野の業務に挑戦することが、本資格を受験する上での重要な一歩です。
前編で触れた、プロジェクト整理シートを使用して、自分が記載しようと思っているプロジェクトを振り返り、例年11月の資格受験に向け、是非自分に足りていない業務(コンピタンス)は何か、確認されてみてください!
11月までまだまだ時間がありますので、自分のやったことのない業務(コンピタンス)ができるように、周りに働きかけてみても良いかもしれません。
ちなみに、例年は11月から募集が始り、年明け1月2週目ごろに審査書類提出の締め切りがあります。
記載する時間はたくさんあるように見えますが、書くことがたくさんあるので、とっても時間がかかります!
1ヶ月くらいは自分と向き合う時間として、覚悟して審査書類を書くことをお勧めします。
ところで、ここまで書いておいて、肝心の私の結果ですが……
昨年、実は不合格でした…
(だからブログを更新していなかったのかって? そういうわけでは……)
2021年度の申し込みをした際、「専門家」と「スペシャリスト」の差は一応理解していたのですが、実際記載するコンピタンスの内容まではきちんと理解できていませんでした。
実際審査書類を書き始めて「これは……私はまだ専門家は無理だな!」と悟り、「専門家」で申し込んでいたものの、結局「スペシャリスト」狙いで、A群のみを記載して審査書類を提出した結果です。。。
完全に、二兎を追う者は一兎をも得ず…のやつ。
そして今年、、、大人しく「スペシャリスト」で申し込み、雪辱を果たして、無事スペシャリスト合格です!
不合格だった審査書類を改めて読み直してみると、分かりやすいようにと書いた説明が、ダラダラと長く逆に分かりづらい内容になっていたなと反省しました。
なので今回は、端的にまとめるように心がけ、余計な情報を減らしスッキリさせることで、内容が伝わりやすくなったかなと思います。
是非書かれる際は、できるだけ端的にまとめることを意識することをお勧めします。
それでは、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
少しでもHCDについてや、HCDの資格についてご興味持っていただけたら嬉しいです!
参考ページまとめ
なお、審査書類やコンピタンスマップなどは、年度ごとに更新されます。
実際ご自分が受験される際は、最新のものをHCD-Netより取得・確認するようご注意ください。
*1:2023年度で採点項目になるかは、現時点不明です。2023年度の応募開始時に別途確認が必要となります。