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WernerのKeynoteと技術予測を見てプラトンからAmazon Qをまとめてみた

本記事は、Japan AWS Ambassador Advent Calendar 2023の13日目の記事となります。

こんにちは!志水です。re:Inventは体力勝負でしたね。私は疲れで判断が鈍りすぎてベネチアンとウィンの5往復しちゃって、更に疲れて負のループに陥っていました。セッション参加する?やっぱやめる?5K登録する?やめる?ホテル戻る?と無限に悩んでました。睡眠ってホント大事だなぁと感じました。

さて、そんな疲れに疲れたre:Inventの中で私が最も印象深かったのはWerner VogelsのKeynoteと同時期に出された技術予測の記事です。これらを見てAIがどこからきて、なにがAmazon Qに求められるようになるかをまとめてみました。

re:Invent全体の振り返り

re:Invent全体を振り返ると、目立ったのは生成系AIのトピックでした。イベント開始前から生成系AIに関する発表が多いと予想されていましたが、実際のところそれはビックリするほど出ました。re:Inventのセッションが3028個あり、そのうちの生成系AIのセッションが587個あり、全体の約19.4%を占めていました。また、re:Invent期間中に発表された新サービスが全部で188個ありましたが、生成系AIはその中で44個あり、全体の約23.4%が生成系AIでした。

また、Keynoteにおいても生成系AIの話題が多く取り上げられました。各KeynoteでGenerative AIと喋った回数を数えると、Adam SelipskyのKeynoteでは64回、Swami SivasubramanianのKeynoteが21回もありました。しかし、その中でもWerner VogelsのKeynoteはわずか3回の言及で圧倒的異彩を放っていました。実際に聞いていた際も、AIに関する話題が出るたびに「これから生成系AIの話が来るのでは」と思っていましたが、予想に反してAIの基本的な内容に話が転じ、ビックリしました。

Werner Keynoteとは

Amazon CTOによるKeynoteで、他のAdamやSwamiのKeynoteと違い新サービス発表にフォーカスしません。開発者や技術についての話が多く、開発者の哲学や技術に関する深い考察が聞ける、開発者は見ておくべきKeynoteだと思います。見てない方は是非下記から見て下さい。

www.youtube.com

今年の話題は、コストを考えた設計とAIの2本柱でした。

コストを考えた設計の方はWernerが提唱したTHE FRUGAL ARCHITECTについての話でした。

thefrugalarchitect.com

そこでは、非機能要件にコストを入れる話や、アーキテクトがトレードオフの連続であることについて喋っていました。詳しくは同じAmbassadorsのフォージビジョン山口さんの記事が参考になります。

shimakaze.hatenablog.com

本記事では、AIについて述べます。re:Invent2023のWerner Keynoteで触れられた内容と、私が独自に調べた古代からのAIの進化に関する情報を統合して紹介します。

古代のオートマタから現代AIへの道のり

古代のオートマタ

紀元前400年頃、今日のAIにつながる重要な基盤が築かれました。基本的な機械装置や自動化された人形、いわゆるオートマタが、この時代から存在していました。これらは、後のAI発展の礎となる考え方を提供しています。特に、ギリシャ神話に登場するダイダロスは、水銀を使用して木製の像を動かす技術を用いて、早くもオートマタを作成しています。

プラトンとアリストテレスは、このようなオートマタを見て、機械が人間の仕事をする未来を想像しました。プラトンの「理想国」では、ロボットが日常の雑用を行う都市国家のビジョンが描かれています。プラトンは、人間の行動を動かすのは「頭脳中心」の象徴であると考え、アリストテレスはそれが心や魂であると考えていました。

現代AIの礎

1950年代には、AIの概念が形成されます。re:Invent2023のWerner Keynoteで取り上げられたように、アラン・チューリングの「Computing Machinery and Intelligence」という論文は、現代のAIの基礎を築きました。これは、AI研究の基本的な枠組みを提供し、後の研究に大きな影響を与えました。

1960年代のAIのアプローチ

1960年代には、シンボリックAIとエンボディッドAIの二つのアプローチが登場しました。シンボリックAIは、論理的思考を模倣し、特定のルールやパターンに基づいて情報を処理します。一方、エンボディッドAIは物理的環境との相互作用に重点を置いており、ロボット技術などにその応用が見られます。

つまり、シンボリックAIがプラトンの「頭脳中心」のアプローチ、エンボディッドAIがアリストテレスの「身体性」のアプローチから生まれたものだと考えることができます。

現代への橋渡し

これらの段階を経て、データ駆動型のアプローチが登場し、大量のデータからパターンを学習する深層学習が発展しました。これにより、AIはより複雑で多様なタスクに対応可能となり、最終的には、新しいコンテンツやデータを自動的に生成する生成系AIへと進化しました。

現代のAI技術の応用例

Wernerがre:Invent2023のKeynoteで示したように、生成系AIだけでなく、古き良きAIにも注目すべきです。International Rice Research Institute(IRRI)で行われた稲の種類の分別やCergenxで行われた赤ちゃんの脳の障害をいち早く検知するシステムなど、多くの分野でAI技術が有意義に利用されています。その上で下記のようにWernerが言っていて、これが一番気に入ってるワードです。

AI predicts, professionals decide

AIは予測をして、プロがそれを決定する

この単純だけど強力なメッセージは、AIの役割と専門家の決定的な重要性を的確に表しています。これは、AI技術の発展とその応用に関して、私たちがどのように考えるべきかを示唆していると思います。

AIは、膨大なデータからパターンを識別し、将来の傾向や可能性を予測することができます。しかし、最終的な決断を下すのは、そのデータや予測を理解し、人間の感情や倫理、経験を考慮に入れることができる専門家です。このバランスは、AI技術の有効活用の鍵です。AIはあくまでツールであり、その最終的な利用方法を決めるのは私たち人間です。

Wernerのこのフレーズは、AIと人間のプロフェッショナルとの間の相乗効果を強調しています。AIによる予測は、データ駆動型の洞察を提供し、専門家はその情報を利用してより賢明な決定を下すことができます。例えば、医療分野では、AIが病気の診断を助け、医師はその情報をもとに最善の治療法を決定します。ビジネスの世界では、AIが市場のトレンドを予測し、経営者はその洞察を基に戦略を練ります。

Wernerが示した「AI predicts, professionals decide」という考え方は、私たちがAIをどのように見るべきか、そしてどのように活用するべきかについての重要な指針を提供しています。これは、AIの持つ可能性を最大限に活用しつつ、人間の判断の重要性を忘れないというバランスのとれたアプローチです。このフレーズは、AI技術とその応用に関する私たちの理解を深める上で、非常に示唆に富んでいます。

未来のAI技術の応用

Wernerは毎年Keynoteと同じくらいに来年の技術予測についての記事を出しています。今年の記事は下記です。

www.allthingsdistributed.com

こちらの内容も非常に面白く、Keynoteでは過去と現在のAI技術について考えさせられましたが、この記事は今後のAI技術について考える機会を提供してくれます

先程、専門家は人間の感情や論理、経験を考慮できるということをお伝えしましたが、この記事では、多様な文化背景に基づいてトレーニングされたAIは、異なる文化のニュアンスを理解し、より幅広い視点からの予測を可能にするという予測をしていました。これにより、専門家がAIの提供する情報をより効果的に活用し、文化的文脈に合った決定を行うことができるようになります。AIの進化は、人間がより洞察力のある判断を下すためのサポートを提供し、文化的な認識を持つことで、そのサポートをより的確なものにします。

また、AIアシスタントは、単なるコード生成から進化し、ソフトウェア開発のライフサイクル全体でサポートを提供するようになるという予測もあります。彼らは複雑なシステムを簡単な言葉で説明し、ターゲットを絞った改善を提案し、繰り返し行われる作業を引き受けることで、開発者が最も影響のある作業に集中できるようにします。これによって、AIアシスタントはチーム全体をサポートし、コードレビューから製品戦略まで幅広い分野に貢献します。これにより、開発チームはより生産的になり、より高品質なシステムを開発し、ソフトウェアのリリースサイクルを短縮できるようになります。

Amazon Qに求められること

Amazon Qに関しては、Wernerの技術予測と連動して、より専門家に寄り添った提案が可能になると考えられています。

文化的背景を理解したAIとして「Amazon Q For AWS Builder Use」や「Amazon Q For Business Use」が文化的背景を理解して、より専門家に寄り添った提案が出来るようになり、ソフトウェア開発のフルサポートという観点では「Amazon Q in Amazon CodeCatalyst」が担ってくると思います。

弊社佐々木も下記記事ですべてはQになると言ってますが、本当にその通りだと思っています。

tech.nri-net.com

すべてがQになってすべて自然言語インターフェースを通じてアシストしてくれる未来になると感じられました。

まとめ

WernerのKeynoteと技術予測記事から、AIについてプラトンからAmazon Qの流れをまとめてみました。こんなに古代ギリシャ神話について調べるとは思いませんでしたが、出てくる人の名前がカッコいいなと知性の低い感想で締めたいと思います。ありがとうございました。

執筆者志水友輔

2023 Japan AWS Ambassador / 2021,2023 Japan AWS Top Engineer / 2021-2023 APN ALL AWS Certifications Engineers
大阪でAWSを中心としたクラウドの導入、設計、構築を専門に行っています。Generative AIとCDKとつけ麺が大好物

X:https://twitter.com/shimi023

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