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『すべてはQになる』 re:InventでAWSのCEOのAdam Selipskyによるキーノートを聞いて(2023年版)

 こんにちは、佐々木です。11月27日からre:Inventが始まっていて、今年も開催地であるラスベガスでリアルタイムで参加しています。そして、28日の朝に一番メインであるCEOのAdam Selipskyによるキーノートが発表されました。簡単なまとめと感想にはなりますが、記事としてまとめました。

生成系AIとAmazon Q

 今年のキーノートは事前の予想通りAI、特に生成系AIについてがメインの関心事項となっていました。MicrosoftとOpenAIの連合に対抗して、Amazon Bedrockを中心にサービスを展開しています。Amazon Bedrockは生成系のAIで、モデルはユーザー自身で選べます。AWS自身が開発したモデルの他に、AI21 Labs、Anthropic、Cohere、Meta、Stability AIなどサードパーティのモデルを選択して組み込むことができます。つまり生成系AIの実行基盤であり、新しいモデルが出てきても拡張しやすい構造になっています。このあたりがAWSらしいところで、AWSはサービスをビルディングブロックとして組み合わせて使えるようにしています。そして、サービスの一つのBedrockの中も、ビルディングブロックのようにモデルを選択できるようにしています。高い柔軟性を持つので、利用者としてもさまざまなシーンで活用できます。

 今年の発表で垣間見れたのが、Bedrockはユーザーが直接使えるサービスですが、AWS自身も内部的なサービスにBedrockを活用しているということです。今年の新サービス・新機能の特徴としては、Amazon DataZone AI recommendationsといったように、個々のサービスの機能追加にWith AIみたいな形のものが増えています。内容を聞いていると、裏でBedrockを使っているものが多いようです。AWSも自身のAIサービスを使うことにより、サービスの進化を加速させていることが理解できます。

 さて、今回の発表の中で一番注目を浴びたのがAmazon Qです。Amazon Qは、単体のサービスではなくAWSによる生成系AIを使った包括的なブランドという位置付けのようです。チャットによるQ&Aや、プログラムのコーディング支援のほか、社内システムとしての業務支援など、対象は多岐にわたります。 MicrosoftがCopilotのブランドで、Github CopilotやMicrosoft 365 Copilotを再編しているのと同じ流れとみています。Qに関する詳細は、個別のセッションで公開されていくので、詳細が分かり次第随時ブログに書いていきます。

AWS独自開発のチップとAmazon S3 Express One Zone

 今回のキーノートで、サービスとしてはAmazon Qがメインでした。そして、同じようなレベルで丁寧に説明されていたのが、AWSが独自に開発するCPUや機械学習向けのアクセラレータなどのチップや、S3 Express One Zoneなど足回りのハードウェアの優位性でした。またキーノートにNVIDIAのCEOであるJensen Huangも登壇し、AWSとNVIDIAの共同の取り組みについて熱く語っていました。

 これらは、AWSを支えるインフラの優秀さを示しています。今、生成系AIが一気に進化して新しい成果をどんどん出していますが、これらが花開いたのもバックエンドのCPUやGPU、ネットワークやストレージがあってこそです。キーノートを通じて再発明(reInvent)という文脈で語られていたのですが、AWSはクラウド時代のストレージやデータベースなど、さまざまなものを抜本的にアーキテクチャを見直して再発明してきました。
 AWSのコンピュータリソースを動かしていたハイパーバイザーも、最初はXenなどの汎用的なものを使っていました。サービスを運用し、さらなる発展をさせていく上で、独自開発のハイパーバイザーであるAWS Nitro Systemに置き換えていきました。それ以外にも、ARMベースの独自開発のCPUであるAWS Gravitonや、機械学習用のチップであるAWS Inferentiaのようなものも開発しています。ソフトウェアだけではなく、ハードウェアを含めた全方位で最適化してきているのがAWSです。

 その文脈で、S3にAmazon S3 Express One Zoneという新たなストレージクラスが追加されました。ひとつのAZのみにデータを配置するOne Zoneというのは以前からあったのですが、データの耐久性の面で使われることが少なかった印象です。しかし、今回Expressということで速さに特化したサービスとしたラインナップが追加されました。特に小さなファイルに対してのレイテンシが小さく、従来のS3より10倍早いケースもあるとのことです。これは完全に機械学習などのデータ読み込みの特性に対応したものを用意してきたということでしょう。

AWSの強さの源泉 セキュリティとストレージ、そしてハードウェア

 今年のキーノートは、以前のものに比べて新サービス発表で歓声が上がることは少なかったです。従来のようなわかりやすい新サービスというものは少なくなっているのが原因でしょう。しかし、個人的にはAWSの圧倒的な底力を感じさせるものでした。

セキュリティ

 AWSの強みの一つは、セキュリティです。生成系AIはモデルとしての優秀さの他に、どのようなデータを使うかが重要です。企業にとって最適化するには、その企業内のデータを使って強化学習をする必要があります。その時に懸念されるのが、セキュリティです。企業の大事なデータを使うので、それを外部に流出させる訳にも、利用させる訳にもいきません。AWS Bedrockは、企業内に閉じた形でデータを利用できるようになっています。また、それを保証される信頼感をAWSは長年培ってきています。

ストレージ

 二つ目は、ストレージです。キーノート中にも言及されていましたが、差異化をもたらすのはデータです。質の高いデータを蓄積することは、ますます重要性になっています。データの蓄積にはデータレイクとなるのですが、AWSの場合はS3になります。S3は最初期のサービスの一つであり、もう17年に及ぶ運用実績があります。その過程でさまざまな機能が追加され、性能もあがっています。それだけでなく、ほとんどのAWSサービスはS3を通じて連携できるようになっています。これが生成系AIの時代になり、最適な形態になっているのではと考えています。

ハードウェア

 最後にハードウェアです。AWSはソフトウェアだけでなく、ハードウェアについても独自に進化させてきました。例えばCPUであるGravitonは世代が新しくなるにつれて何十パーセントというレベルで性能を向上させており、さらに数年おきという頻度で世代交代させています。専業のCPUメーカーでもないAWSが、自社向けのためだけにこれだけの投資をしている事実は驚愕です。そしてCPUに限らずさまざまな分野で同様のことを実現しています。ハードウェアとソフトウェアの両面で進化させられる強みを改めて感じました。

その他の強み

 これらの要素の他に、ビルディングブロックとしてサービス間を連携できることも大きいです。この思想のもとで全てのサービスが開発されているので、ユーザーにとってもAWS自身にとっても新しいサービスが発表されるたびに、既存のシステムに組み込んで発展させることができます。
 それに加えて、AWSの利用者数というもの自体も強みです。今回のre:Inventの参加者数は把握していませんが、おそらく全世界から5万人以上は来ています。それだけのユーザーを惹きつける、また、そのユーザー自身が情報を発信するエコシステムが作り上げられています。これは単純なサービス・機能の差異だけでは埋められない強さです。

キーノート動画と概要

 キーノートは、YouTubeで公開されています。この記事で書いたようなことが、どのように表現されているのか、ぜひ見てください。 

AWS re:Invent 2023 - CEO Keynote with Adam Selipsky


www.youtube.com

なお、この記事中の画像は、現地でとった写真の他にYouTubeの動画から切り出したものです。

感想

 2時間半にわたるキーノートで、テーマも生成系AIということで非常に難しいものでした。一度見ただけでは理解しきれず、また見ている時も考えさせられることが多く非常に疲れます。また、今までのキーノートと違って、対談形式の時間が多く内容も非常に示唆に富んでいました。特に、Bedrockにモデルを提供しているAnthropic社のCEOとの対談は、将来のビジョンなど非常に面白いものでした。これだけのコンテンツが無料で公開されているので、ぜひ一度は見てください。  個人的には、Amazon Qに対して今後あらゆるサービスが連携してくると予想されるので、誰にでもプロフェッショナルレベルのアシスタントが付くのと同じようだと考えています。それをどう使いこなそうか、考えていきます。

執筆者 佐々木拓郎

Japan AWS Ambassadors 2019-2022
ワイン飲みながら技術書を書くのが趣味なおじさんです

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