
1. はじめに
こんにちは!アプリケーションエンジニア2年目の松澤です。普段は産業系のお客様向けのネイティブアプリケーションの開発を行っています。
突然ですが皆さん、金沢に行ったことはありますか?
金沢は、近江町市場やひがし茶屋街、兼六園など、数多の観光スポットやグルメスポットがひしめき、とても魅力的な場所です!私が個人的に推している、「ラブライブ! 蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ」*1というコンテンツの聖地でもあり、その点でも金沢の魅力がさらに増しています。
この度、そんな金沢にてJAWS FESTAというAWSのコミュニティイベントが開催されました。その中では、2024年1月1日に発生した能登半島地震に対して石川県がどのような取り組みを行ったのかなど、石川ならではのセッションも聴講することができ、非常に有意義な時間となりました。
本ブログでは、能登半島地震についてのセッションと、公共事業に直接かかわっていないエンジニアである私がそこから得た学びについて、まとめていこうと思います。
2. JAWS FESTAとは

JAWS FESTA / JAWS DAYSは、AWS User Group - Japan(JAWS-UG)が主催のAmazon Web Services(AWS)にまつわるカンファレンス型イベントです。様々なセッション、企業ブースやその他常設展示などを通して、AWSに関する知見を得ることができます。JAWS FESTAは秋に地方で開催される一方、JAWS DAYSは春に東京で開催されています。今回私は、JAWS FESTAに参加しました。
今回の開催地に金沢が選ばれた背景には、2024年に発生した能登半島地震と豪雨災害があります。これまでにも、福島や熊本といった被災地において、AWSを通じた支援や復興への貢献を続けてきました。中でも、福島での災害時に活動した「タイガーチーム」は、JAWS-UGの原点のひとつともいえる存在です。そんなJAWS-UGが、再び「復興」をテーマに金沢に集い、学び合い、未来を語り合う場をつくることには、大きな意味があります。このイベントを通じて、JAWS-UG、AWS、クラウドの力強さと可能性を全国へと発信し、新たなつながりを生み出していきたいと考えています。
出典:JAWS-UG(AWS User Group – Japan) https://jawsfesta2025.jaws-ug.jp
上記、引用となりますが、今年は石川県金沢市で開催されました。AWSに関するセッションはもちろん多数ありましたが、今年は能登半島地震に被災された石川県ならではのセッションも聴講することができました。
また、私は以前JAWS DAYSにも参加しました。その時の様子は以前ブログにて執筆させていただきましたので、ぜひご覧ください。
3. 聴講したセッション
私は、JAWS FESTAを通して複数のセッションを聴講しました。今回は能登半島地震にまつわる3つのセッションをピックアップしていきます。
能登半島地震で見えた災害対応の課題と組織変革の重要性
登壇者(敬称略)
- 石川県前副知事 西垣 淳子
概要
本セッションでは、能登半島地震の際に石川県副知事として復興対応の最前線に立たれた西垣さんが、災害関連死を防ぐために必要な被災者情報連携の難しさや、災害現場におけるガバナンスの重要性についてお話しされました。
石川県が取り組んだこと
能登半島地震で生じた問題として、道路等のインフラが断絶し、高い高齢化率の下で医療・介護施設の機能が低下しました。その結果、広域避難が必要になりました。
それに伴い石川県が災害関連死を防ぐために取り組んだこととして、以下の3つの取り組みが紹介されました。

Step1:避難所情報の収集
市町村が運営する指定避難所の場所は把握できていましたが、被災者自身が運営する自主避難所や孤立集落の把握は困難でした。
把握した避難所情報を既存の総合防災情報システムに一元化し、防災ポータルや災害対策本部への情報提供、物資支援につなげる取り組みが行われました。
しかし当初は、避難者情報が独自形式で管理されており、県職員が市町へ直接出向く必要があったほか、自主避難所が多数発生したことで、避難所情報の不一致により、システム上の被災者数と実際に必要な物資量が合わないという課題がありました。
自衛隊や災害派遣医療チーム(DMAT)などの現地調査を経て、IDを持たない避難所の名寄せを位置情報から行い、データを集約することができました。
Step2:避難者情報の収集
避難者は発災4日時点で約34,000人でしたが、17日時点では約15,000人に減少しました。この退所した避難者に対しても、支援を行う必要があります。
しかし、被災者を一元管理するデータベースは存在しなかったため、避難所に紐づけた避難者データの収集を行い、広域被災者データベースを新規構築しました。
避難所にいない被災者の把握方法は、アプリやマイナンバーカード、Suicaなどを通して被災者自身がアクセスする手法を構築しました。
しかし、支援のためには市町村を超えた情報共有が不可欠であり、個人情報保護法における災害時対応の不明確さ、市町村ごとに異なるシステムや独自フォーマットによる名寄せの困難さ、さらに被災者の行政に対する信頼性など、さまざまな課題が浮き彫りとなりました。
Step3:被災者生活再建支援
被災者の被災度に応じた支援を行うために、被災者データベースを意思決定の支援ツールとして用いました。
被災者の見守りや相談支援など、広域避難先でもプッシュ型で情報発信が行える仕組みを導入するなど、被災者の立場に立った支援が実現しました。
質疑応答
私が特に印象に残ったのは、質疑応答の時間でした。聴講者からの2つの質問について印象的な回答がありました。
被災者データベースの構築に理解は示されたか
被災者データベースを構築する際、行政内での賛同は得られたのかという質問でした。結論、理解されないことが多かったそうです。行政内では各部署が縦割りで業務を行っており、突発的に発生する新たな課題への対応が難しいのが現状とのことでした。 ここで、エンジニアが取り組みの意義を対外的に説明する力の重要性を強く感じました。
エンジニアに求められることは
西垣さんは、「行政の既存知識の範囲を超えたソフトウェアや技術を提案していくことがエンジニアに求められる」と述べられました。 例えば、「自主避難所を把握するために、自衛隊の方に避難所の写真を撮影して、写真から緯度経度、タイムスタンプを取得し、自主避難所の場所を特定する」といった技術には非常に感銘を受けたそうです。
能登半島災害現場エンジニアクロストーク
登壇者(敬称略)
- JAWS-UG 相羽 大輔
- 株式会社角川アスキー総合研究所 大谷イビサ
- アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 沼口 繁
- 北菱電興株式会社 松田 夕貴
- フリーランスエンジニア(能登町柳田出身) masayan
- 耐災害デジタルコーディネーションセンター 杉井 正克
- 耐災害デジタルコーディネーションセンター 山本 純平
概要
本セッションでは、実際に震災を経験したエンジニアや、震災に関する事業にかかわったエンジニアの皆さんが、パネルディスカッションという形で、JAWS-UGについて・被災地の状況・防災DX事業の様子を語られました。
被災地の状況
実際の被災地の写真をもとに、現地の状況について説明がありました。
物流の停滞によるスーパーマーケットでの在庫不足、地震で倒壊した家屋、地割れで通行不能となった道路、パンクして放置された車など、被災地の厳しい実情を知ることができました。

災害デジタルコーディネーションセンターのクロストーク
一般社団法人 耐災害デジタルコーディネーションセンター(DIT/CC)の杉井さん、山本さんが、石川県庁・国・他都道府県・民間企業の共同によるデジタル面での復旧・復興対応について語られました。
山本さんの所感
山本さんは、石川県庁に常駐し、被災状況・避難場所・要望などをまとめる被災者訪問アセスメント管理システムの構築など、様々なシステムを構築・運用支援を行いました。
山本さんが感じていた課題は、信用形成でした。行政と民間の橋渡し役として活動する中で、行政側からの信頼を得ることが容易ではなかったといいます。
また、法律と現場のギャップも大きな課題として挙げられました。たとえば、被災者データベースの構築は一刻を争う対応でしたが、個人情報保護の観点から閲覧制限を設ける必要があり、対応が遅れる場面もあったそうです。結果として、被災者を守るための法律が、被災者支援を妨げてしまうという矛盾が生じていました。
また、山本さんは防災DX市場が小さいことに危機感を抱かれていました。防災DX分野はボランティア的な活動に頼ることが多く、収益性が低いため、企業が人材を派遣しにくい現状があるとのことです。
杉井さんの所感
杉井さんは、石川県庁に常駐を行い、広域被災者データベースの構築の支援や、法律・制度面での支援を行っていました。
杉井さんも山本さんと同様に、信用形成に関して課題を感じていました。以前、東京都の職員として被災地に行かれた際には、「東京の者が何をしに来たのか」と、厳しい言葉をいただいた経験もあったと語られました。
また、法律に関する課題も感じていました。法律は普段の生活では読む機会がなく、普段から見ていないと解釈が難しいケースも多いとのことでした。

デジタル庁:災害派遣デジタル支援チーム(D-CERT)
デジタル庁より、2024年8月5日にD-CERTが創設しました。平時から災害対応システムを構築・整備し、災害発生時には迅速にデジタル面で支援できるようにすることを目的としています。災害のたびに同様の課題が繰り返される現状を踏まえ、デジタルの力で課題解決を図る取り組みです。
支援チーム構成員として、防災DX官民共創協議会 が介入しており、民間のデジタル人材が参画できる仕組みとなっています。
能登半島地震でデジタルができたこと・できなかったこと
登壇者(敬称略)
- 石川県総務部デジタル推進監室 番匠 啓介
- 石川県総務部デジタル推進監室 谷場 優
- 石川県総務部デジタル推進監室 杉浦 慎将
概要
本セッションでは、被災者データベース構築のプロセスを中心に、能登半島地震で明らかになった災害対応の課題と組織変革の重要性でも取り上げられたStep1~3の内容を深堀りしていました。多様な機関からの情報収集やデータ連携における課題など、現場で直面した具体的な事例を交えながら説明されていました。
被災者データベースの課題
構築に関する課題
被災者データベース構築においては、複数の組織が個人情報を共有する仕組みであるため、情報セキュリティポリシーへの準拠が課題となっていました。
また、データ連携に関わる主体が多岐にわたることから、明確な責任分界点を設定する必要がありました。
さらに、システム間のAPI連携やファイル連携には行政専用ネットワーク(LGWAN)の利用が求められており、外出先からの利用に際しては、二段階認証やグローバルIP制限などのセキュリティ対策を講じる必要がありました。
活用に関する課題
被災者データベースを活用するためには、災害対応の現場で得られる情報をデータ化する作業が不可欠です。
しかし、現場では紙の資料が多く、手書きによる誤記や表記ゆれが発生していました。また、担当者ごとに様式が異なっていたこと、支援を世帯単位・個人単位の両面で行う必要があったこと、支援を継続する上で常に最新の被災者情報を把握する必要があったことなど、数多くの課題がありました。
さらに登壇者からは、実際に現場を見てからでなければ適切な企画や改善ができないこと、行政の従来のやり方に対する信頼が根強く、新しい方法に対して慎重になる風土など、組織文化的な課題も挙げられました。
石川県創造的復興プラン
2024年6月、石川県は「創造的復興の実現」を目指し、石川県創造的復興プランを策定しました。この中で、13の取り組みを「創造的復興リーディングプロジェクト」として位置付けています。

その中でも、取組8「奥能登版デジタルライフラインの構築」では、以下の3つの施策に重点的に取り組んでいます。
ドローン航路の整備
ドローンを平時にはインフラ点検やパトロールに活用し、有事には災害現場へ直行できる体制を整備しました。
拠点となるハブの整備
避難所となる公民館などを災害時のデジタルハブとして整備しました。通信が途絶した避難所にもスターリンクを設置することで、通信途絶期間を3日から0日に短縮しました。
マイナンバーカードの活用推進
被災者情報の把握にマイナンバーカードを活用しました。
被災時にカードを持参しないケースを防ぐため、スマートフォンとの連携を進め、平時には住民サービスの利便性を高め、有事にはQRコードを用いた支援を実現しました。
4. 得られた教訓に対する私の所感
能登半島地震による石川県の取り組みを通して、多くのエンジニアがかかわってきました。その経験から、行政が感じたエンジニアに期待すること、エンジニアが感じた課題をまとめると、下記の3項目に分類できます。
- 各種ステークホルダーに対する信用形成
- 行政・法律・現場に関する理解
- ステークホルダーが思いつかないソリューションを提示する力
公共系、防災系の事業に携わっていないエンジニアとして、これらの教訓をどのように落とし込めばよいか考えていきます。
各種ステークホルダーに対する信用形成
ステークホルダーとの信用形成は、言い換えると社内外での信頼関係の構築だと感じました。
私たちは日々、顧客や同僚など、さまざまな関係者と関わりながら業務を進めています。与えられたタスクに責任を持つ、期限を守る、自ら提案を行う――こうした基本的な行動を積み重ねることで、まずは身近な人から信頼を得ることが大切です。
一方で、対外的に自分のスキルや経験を説明できる状態にしておくことも重要だと感じました。自身のスキルを「見える化」することで、相手からの信頼も高まります。たとえば、技術ブログの執筆やポートフォリオの作成などを通じて、スキルや実績を発信していくことが効果的です。
行政・法律・現場に関する理解
公共系の事業でなければ、行政や法律にかかわることは少ないと思いますが、「顧客の業務」など、ビジネスを理解することが求められていると言い換えられると感じました。顧客がどのような業務を行い、どんな課題を抱えているのかを理解することで、適切な要求定義や提案ができるようになります。そのためには、単に技術だけでなく、ビジネスの知見を持つことが求められます。
ちなみに、D-CERTでは、市町村や県の業務知識を深めるための独自研修カリキュラムがあり、法令などの知識を体系的に学ぶことができるそうです。
ステークホルダーが思いつかないソリューションを提示する力
このソリューションを提示する力に関しては、常日頃から、様々な技術を地道に吸収し、アウトプットすることが重要だと思います。
自分の専門分野を深めるだけでなく、専門外の知識や技術にも幅広く触れることで、提案できるソリューションの数が増え、顧客が実現できる選択肢も広がります。私の専門はC#ですが、そういった意味でもAWSに関する技術を学ぶこともその一環だと考えています。
知見を広げる方法としては、JAWS FESTAのようなカンファレンスや勉強会への参加が効果的です。イベントで新しい技術をインプットし、業務で実践し、ブログや登壇などでアウトプットすることで、知識が定着していきます。
また、自分だけで提案が難しい場合でも、専門家との人脈を構築して連携することも有効です。多様な分野の専門家がいる環境であれば、より柔軟で質の高いソリューションを提供できるようになります。
結論
今回の学びを通じて、エンジニアにはビジネスの知見と専門的な技術力の両立が求められていると感じました。
これらは一朝一夕で身につくものではありませんが、日々の業務の中で意識的に鍛えていくことが重要です。特に、ビジネス知識は実際のプロジェクトに関わらないと身につきにくい一方で、技術力は日々の自己研鑽で高めることができます。
公共事業に携わる機会は少ないかもしれませんが、部署異動や新たな顧客との出会いなど、環境が変わった際に備えて、「どのように信頼を築くか」「その時までにどのように技術を磨くか」を意識しておく必要があると感じました。
5. まとめ
今回は、JAWS FESTAの能登半島地震に関するセッションを通じて得られた教訓を、一エンジニアの視点からどのように活かせるかを考えてみました。
私の考察はあくまで一意見に過ぎませんが、この記事を読んでくださった方が、能登半島地震での取り組みから学びを得るきっかけになれば幸いです。
被災者支援というテーマに直面したとき、エンジニアとして「自分にできることは何か」を考え、日頃から技術で社会に貢献できる姿勢を持ち続けていきたいと感じました。
(付録) 金沢旅行記
私がJAWS FESTAに参加したときに、金沢を観光してきましたので、その様子を一部お見せいたします。 石川はとても魅力的な場所です!皆さんもぜひ遊びにきまっしね!



