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Webディレクターの伊東です。もうすぐ、2025年度のHCDスペシャリスト/専門家の審査時期になります。この記事では、2023年度のHCDスペシャリストに合格できた経験をもとに、Webディレクターとしてどんな実務経験が合格に役立ったのかを整理して紹介していきます。
日々の業務で自然とHCDプロセスを回している方も多いはずなので、「どんな経験が審査の評価対象になるのか」を知りたい方の参考になれば幸いです。
- はじめに|Webディレクターは意外とHCDのフローを経験している
- HCDプロセスとWebディレクター実務の関係
- HCDの実践につながった実務経験
- 3つの案件に共通していた“型”:マーケティング×クリエイティブ×ビジネス
- 最後に|実務経験を“まとめておく”習慣が大事
はじめに|Webディレクターは意外とHCDのフローを経験している
前職では営業兼Webディレクターとして、サイト改善や制作のディレクション業務に携わっていました。 当時は「HCDスペシャリスト」という資格の存在すら知らなかったのですが、振り返ってみると多くのプロセスで HCD(Human Centered Design/人間中心設計) の考え方に沿った業務を行っていました。
HCDとは、ユーザー体験(UX)をより良いものにするための国際標準の設計プロセスです。 そのプロセスに基づいて、HCD-Net(人間中心設計推進機構)が認定している資格が HCDスペシャリストになります。(上位資格に「専門家」があります)
特徴的なのは、座学ではなく実務経験の記述による審査が中心という点で、日々の業務でどれだけHCDプロセスを回してきたかが、そのまま評価に反映されます。
私は転職後にこの資格の存在を知り、「デザイナーが多い資格」というイメージを抱きつつも、Webディレクターとして積み重ねてきたヒューリスティック評価・アクセス解析・ユーザー調査・構造設計などの経験を整理して提出し、2023年度に合格できました。
次章から、HCDプロセスに触れながら、実際にどのような経験が評価につながったのかを紹介していきます。
HCDプロセスとWebディレクター実務の関係
HCDは調査 → 分析 → 設計 → 検証の4ステップで構成されており、それぞれを実行するための「13のコンピタンス(能力)」が定義されています。 Webディレクターの実務は、この流れに自然と沿っているケースが多く、日々の経験がそのままHCDスペシャリストの評価対象になります。

引用:https://tech.nri-net.com/entry/hcd_specialist_exam_part2
HCDスペシャリストやコンピタンスの解説については、以下の記事が参考になります。
ぜひ参照してみてください。
HCDの実践につながった実務経験
ここからは、HCDスペシャリスト合格に活きた実務経験のポイントをプロジェクトごとに紹介します。
プロジェクト①:サービスサイトの調査から構造・UIの作り直し
あるサービスの公式サイトが長年改修されておらず、デザインの老朽化・使いづらいUI・情報構造の複雑さが原因で、ユーザーが目的の情報に辿り着きにくい状態でした。 集客の大半はブログ経由に偏り、公式サイトからの申込獲得が課題となっていたため、サイト全体の導線と運用設計を含めて再設計しました。
実施内容例
- ヒューリスティック評価
- アクセス解析
- 競合ベンチマーク調査
- アンケート調査
- ペルソナ整理とターゲット定義
- コンバージョンシナリオ設計
- 情報構造の見直し・SEO設計
- ワイヤーフレーム作成とデザイン定義
- CMSや問い合わせ管理を考慮した運用設計
- オウンドメディア構築
「評価→調査→分析→設計」というHCDの基本サイクルを一通り回した形です。
結果、サイトからの問い合わせが大幅に増え、集客構造を再設計することができました。
経験のポイント
- 評価→調査→分析→設計のHCDサイクルをフルで経験できたこと
- 公式サイトの“構造そのものを再設計する”経験が積めたこと
- ブログ依存から脱却し、自社サイトで成果を出す導線設計ができたこと
- CMSや運用フローなど、UX以外の“仕組みづくり”も担えたこと
プロジェクト②:ECサイトの“ユーザー再定義”から売上改善の仕組みづくり
一定のアクセス数はあるものの、CVRが伸び悩む状態が続いており、広告投資をしても売上につながりにくい課題を抱えていました。 市場環境も変化し競合も増えていたため、「そもそも今のユーザーは誰か?」という根本から見直す必要がありました。
実施内容例
- 数千件規模のアンケートでユーザー心理を把握
- 検索トレンド・比較行動の分析
- 競合ベンチマーク調査
- アクセスユーザー属性の分析
- 目的別にユーザー像を整理
- 購入までのシナリオづくり
- ナビゲーションとカテゴリの整理
- LP・診断コンテンツの企画
- トップページのマイナーチェンジ
UIだけでなく「売れる体験づくり」まで踏み込んで再設計した結果、新規購入率が上がり、定期購入の大幅な増加にもつながりました。ここでは、クリエイティブ・マーケティング・UXをひとつの流れとして扱う大切さを実感しました。
経験ポイント
- 調査で「想定と異なるユーザー像」を発見し、それを体験設計に反映する一連の流れを経験できたこと
- ECの本質的なUXパターン「理解 → 比較 → 安心」を実務を通して整理できたこと
- ユーザージャーニー(シナリオ)から逆算して、売上に結びつく導線を設計できたこと
プロジェクト③:多階層のBtoCブランドサイトを構造から再設計
複数ブランドを扱う大規模サイトでは、情報が深い階層に埋もれ、ナビゲーションやコンテンツ構成が複雑化していました。その結果、ユーザーが目的の情報に辿り着きにくく、サイトの“構造そのもの”が課題となっていました。長年コンテンツを積み重ねてきたことで類似ページが乱立し、SEO評価も分散。情報構造そのものがUXの阻害要因になっている状態でした。
そこで、サイト全体の情報構造・導線・検索性を抜本的に見直すプロジェクトを推進しました。
実施内容例
- 構造の課題を棚卸し(ヒューリスティック評価・アクセス解析)
- 新しい情報構造の設計
- ナビゲーション・メガメニュー再設計
- 階層・リダイレクト設計
- UIやビジュアルの統合・刷新
上記のように、サイト全体を「見える化→整理→再設計」しました。結果、ブランドページの検索順位も上がり、回遊性も改善され新規ユーザーとの接点を増やすことができました。これらの経験から、サイトの構造はUX・SEO・ビジネス成果に直結するということを学びました。
経験ポイント
- 多階層サイトの“構造そのもの”をHCD視点で再設計できた
- ブランド体験・SEO・UXを同時に満たす情報設計のスキルが向上した
- ユーザーの情報探索行動を軸に、導線を整理する力が磨かれた
3つの案件に共通していた“型”:マーケティング×クリエイティブ×ビジネス
3つの案件を振り返ると、共通していた思考は以下のようなものでした。
- ユーザー行動の深い理解
- 課題の可視化と仮説の言語化
- 情報構造から考える
- UI改善に合理性を持たせる
- ビジネス成果まで結びつける
これらはWebディレクターとしての業務そのものであり、クリエイティブ×マーケティング×ビジネスの三位一体で設計する姿勢が、HCDへと直結していると感じました。
最後に|実務経験を“まとめておく”習慣が大事
HCDスペシャリスト合格のために最も重要だったのは、実務経験を、後から説明できる形で残しておくことでした。
- 調査の目的と設計理由
- 分析から導いた気づき
- どんな仮説を立てたか
- そのUIにした根拠
- 解決策がどう成果につながったか
など、これらを定期的にまとめておくと、HCDプロセスとしてのアウトプットが“再現性のある形”になります。この「まとめる習慣」がHCD的思考の力を育てると強く感じたため、これからも、スペシャリスト上位資格の専門家を目指せるように取り組んでいきたいと思います。
補足
HCDスペシャリストの審査書類づくりは、正直かなり過酷でした。気づけば100時間以上は余裕でかけていて、「この実務経験はどのコンピタンスにどのように書けばいいんだろう?」と何度も迷いながら進めていました。
ただ、完璧に分類するよりも、経験がHCDプロセスとして流れにつながっていれば大丈夫なんだなと感じています。苦労はありましたが、自分の仕事をプロセスで可視化する大切さも実感できたので、これから受験する方の参考になれば幸いです!