本記事は
Designers Week 2022春
4日目の記事です。
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こんにちは。NRIネットコムでアートディレクター・Webデザイナーをやっています、柳田です。
今日は、デザインを伝えるということ、その中でもとりわけ「言葉で」伝える、つまり言語化するということについて書きたいと思います。
言語化なんて、デザイナーの仕事じゃない!……はずだった
書き出し早々になんですが、私は文章を書くこと、言葉でうまく物事を伝えることが苦手です。世の中の優れた書き手のように、言葉を巧みに操ることはできない。自分の書いたものはつまらないし、価値がない。だいたい書くのが苦痛だし、人前で話すのは緊張するし。ましてや仕事になんか絶対したくない。それが私の「言葉」「伝えること」に対する姿勢です。(よってこのブログも半ベソかきながら必死で書いてます)
思い起こせばもうおよそ20年も前のことになりますが、駆け出しのWebデザイナーだった私は、無知でスキルもないのに、生意気でした。「文章書けないからデザイナーになったんじゃ! どんなデザインなのかは見て理解してくれよ」って本気で思っていました。デザインの説明を求められることを不条理とすら感じていました。
しかし残念ながら、月日を経てデザインスキルが向上することはあっても、それにより「デザインを説明しなくていい」機会が訪れることはなく、むしろ増えていきました。そしてある時、完全降伏したのです。「これは避けては通れない道なのだ。『デザインを伝える』ことはデザイナーにとっての必須スキルなのだ」と。恥ずかしながら、こう悟ったのはそんなに昔のことではありません。
言語化が必要な理由
ではなぜ、デザインの言語化が必要なのでしょうか。
簡単に言ってしまうと、「そのデザインに関わるすべての人とイメージを共有し、プロジェクトを正しい方向に進めるためのコミュニケーションツールとして言葉が欠かせないから」です。
プロジェクトに関わる人はみんな立場が異なり、デザインに期待することや抱いているイメージがちょっとずつ違います。言葉を使って各自が持つ考えやイメージを表現することで、状況や考えが可視化され、みんなが同じ内容を共有しながら軸のぶれない議論ができる。それは取りも直さず、円滑にプロジェクトを進めることにつながります。
最近読んだ田中泰延さんの本に、TVCM制作の世界でも、結局作業を進めるための一番のツールは言葉だ、ということが書いてありました。CM制作では絵コンテなどの素材も作るが、結局イメージを共有するためには言葉を主に使い、最終的なイメージのアウトプットは、映像ができあがるまで誰にもわからない、とのこと。
つまり、デザインだけでなく、すべてのクリエイティブな作業プロセスにおいて、関わる人々がコミュニケーションを図るためには言語化は避けて通れない道だということです。はい、もう観念しました。
キャリアアップするにつれ増える、「デザインの言語化」の必要性
さて、言語化から逃げられないとダメ押しをされたところで、現在の私にどのような「デザインの言語化」の機会があるか、ざっと挙げてみます。
- 後輩・仲間のデザイナーが作ったデザインへのフィードバック
- クライアントへのデザインに関する要望・現状の課題等に関するヒアリング
- 担当ディレクターやプロジェクトメンバーへのデザイン説明
- クライアントへのデザイン提案時のデザイン説明資料作成、プレゼン
- 制作したデザインについてのガイドラインの作成
などなど。あくまで体感的な数値にはなりますが、私のデザインに関連する全業務時間のうち、3割近く、もしかしたらそれ以上を上記に費やしていると言っても過言ではありません。
若いデザイナーのあなた。まだ今は任される案件の規模も小さく、デザインの説明の機会も少ないかもしれません。ですがスキルがアップするについて、面倒を見る後輩ができ、クライアントと接する機会が増え、より上流から案件に関わることになり、あなたがデザインについて言葉でコミュニケーションをとる時間は右肩上がりに増えていきます。
その時は絶対やってきます。
ですがそんなに悲観することはありません。こんな私でも、まあこうして約20年なんとかデザイナーとしてやっていけていますから。あなたもきっと大丈夫です。
言語化のポイント
では、ここからは私がデザインの言語化をする上で重視していることをいくつかご紹介します。
① 説得力を増すためには、「だからこそ=必然性」のある説明を
デザイナーがよく説明を求められるものに、色の選択理由があります。
あるデザイナーが、クライアントのために『ランニングの時間やコースなどを記録し管理するスマホアプリ』の画面をデザインしたとしましょう。色は特に指定はないので、このアプリに合う色を決めて欲しいとクライアントからは言われました。 そして、デザインカンプ(確認用のデザイン完成見本)をクライアントに提示します。
クライアント「メインの色はオレンジですか。どうしてこの色なんですか?」
デザイナー「はい、陽気で健康的な印象をもたらすので、オレンジにしました!」
これは典型的なダメ回答です。
「色が及ぼす心理的効果」はデザイナーにとって初歩的な知識。誰でもこれくらいは言えるものなんです。しかし、この程度の情報は「カラーイメージ」「色彩 心理」などとググればクライアントでも見つけられる一般論です。根拠が浅すぎる!
ランニングのデータ記録アプリであれば、「風を切って走る自由なイメージから空のような水色」「緑の中に調和して走る自分、自分の成長を表す緑」など、オレンジ以外の選択肢も出てきたはず。しかし、最終的にオレンジを選んだ。その理由があるはずなのです。
つまり先程の説明に欠けているのは、「このアプリだからこそ、オレンジにしたのだ」という「だからこそ」の部分。これを埋めると、理由をただの一般論から「なぜこの色遣いでないといけないと言う結論に達したか」という必然に飛躍させることができます。
では、先程の会話で、次のように答えてみてはどうでしょうか。
「走ることによって燃焼されるエネルギーと漲るパワーを表現したく、オレンジをメインに選びました。オレンジには気分の高揚をもたらすという心理的影響があるとされており、ランニングの最中に見ることで更にやる気を引き出す効果も狙っています。また他社の競合アプリはすべて寒色のカラーリングのため、視覚的差別化も図れます。」
オレンジにした理由には深く納得してもらえるのではないでしょうか(クライアントが最終的にオレンジ色を選ぶかどうかはさておき)。
この説明だと、このデザイナーがこのアプリの用途を理解し、ユーザーへのベネフィットも期待しつつ、競合も含めた俯瞰的な視野をもって検討した結果、考え抜いたベストがオレンジである、と結論づけたことが伝わり、説得力が増すことになります。
② インプットとアウトプットで表現力をつける
文章は形容詞や具体的描写を加えるほど、読み手はその状況をより鮮明に正確に思い描くことができます。
例えば、
男は非常に奇妙な盾を手に入れた。
と言われるよりも、
男はクラゲの頭でできた、直径1m程の大きく透明な盾を手に入れた。
と言われるほうが、複数の人が脳内でイメージする盾のイメージは近いものになります。
つまり、自分が考えていることを相手に正確に理解してほしい場合は、できるだけ
- 正確な形容詞を使い
- 具体的な描写を駆使して
- ときにはメタファー(比喩)も用いつつ
言いたいことを表現することが必要になってきます。
このようなボキャブラリーを増やすために、「本を読め!」という月並みなアドバイスがありますが、これは月並みであっても非常にまっとうで、「形容詞のバリエーションを増やし」「描写のしかたや的確なメタファーを盗むことができる」ので、インプットの強化として大変おすすめです。
世にあふれる「伝えるためのハウツー本」を読むのもいいですが、私は小説でも随筆でも、好きなものを楽しく読んで、自由に表現を増やしていくのがいいと思います。
特にデザイナーであれば、視覚的な描写・表現には敏感になるといいでしょう。 視覚的な印象の描写を学びたければ、アートの批評などを読んでみるのも手です。ピカソの絵のタッチは、マグリットの技法は、どのようなものだと表現されているのか。それを知ることで自分の表現の幅も広がります。
インプットだけでなく、アウトプットを鍛えることも大事です。現在うちの課では、Slackで「デザイン道場」なるチャンネルを開設し、若いデザイナーに、いいと思ったウェブサイトの紹介や、映画・小説などの古典を鑑賞した感想を、Twitterと同じ140字以内にまとめて書いてもらうということをやっています。
無駄な言葉を削ぎ落として伝えたいことを伝えるためには、正確な描写や言い換えのボキャブラリーが不可欠で、道場を続けているデザイナーの表現スキルは間違いなく向上しています。
③ 相手の言葉で語る
長年連れ添った家族や友人と少ない言葉数で意思疎通が図れるのと同じように、デザイナー同士なら共通の知識や経験を持っていることが多いため、「デザイナーの言語」を使って容易にコミュニケーションが図れたりします。
しかし私たちがデザインを説明する相手に、この「デザイナーの言語」が通じることはまずありません。相手はデザインのプロではないからです。デザイナーが当然と思っている知識も、相手にとっては当然ではない。なのでそれを前提にして話を進めても、相手には前提がないので話が通じません。
また、言葉に対する意味や印象の捉え方が、相手と全く異なっていることもあります。
下記はデザインプロセスの領域に注力されているデザイナー、ハセガワヤスヒサさんのツイートですが、自分とクライアントの「デザイン」という言葉の捉え方のギャップに、ハッとさせられます。
私たちが「デザイン」と言うと、クライアントの耳には「アート」と聞こえる。そこのギャップを埋めようと努力するのではなく、彼らのほうが理解している「ビジネス」という言葉からから始めたほうが良いと思う。
— ヤスヒサ 🧞♂️ (@yhassy) May 16, 2014
デザインの専門家である私たちは「デザインはアートではない」ということを何度も言い聞かされてきていますが、クライアントにとってはそうではない。この時に私たちがしなければならないのは「デザインはアートではないんですよ」という定義の説明ではなく、私たちの「デザイン」がクライアントのビジネスにどのような形で貢献できるのかを彼らがわかるように語れ、ということですね。
相手との専門性(職種)の違いだけではなく、同様に、業種・世代・性別・会社でのポジション等々によって、常識や物の見方・見識の深さなどが異なるため、同じ日本語で話しても、自分の言っていることが相手にしっかり伝わるとは限りません。
これは、デザイナーだけの話ではありません。エンジニアにも、マーケターにも、どんな人にも起こることだと思います。
クライアントに説明しているときに、どうも話が伝わっていないような気がするな、と思ったら。「自分目線だけで話をしてしまっていないだろうか?」と立ち止まってみてください。
「自分と相手は違うのだ」ということを理解し、相手をできるだけ知り、相手に理解のできる言葉で語ろうとすること。これでより一層深い意思疎通が図れるようになります。
表現が苦手な私をそれでも突き動かすもの
万年イヤイヤ期の私がデザインの言語化になんとかポジティブに向き合えているのは、ひとえに「相手の思うイメージをできるだけ正確にビジュアル化したい!」「自分が抱いているイメージを伝えたい!」という強い願望から。
ひいては「本当にエンドユーザーに響くようなデザインにしたい」「デザインがクライアントの期待する結果を出す一助となりたい」ということ……つまり極論、月並みな表現ですが「このデザインで誰かを笑顔にしたい」という思いに尽きます。
自分が作ったデザインが、「あのデザインよかったよな〜」という自己満足で終わるのではなく、世の中の何人か、もしかしたら何百人、何千人の人を少しでも助けたり、クスッとさせられたりできたかもしれないと思えること。そのことがデザイナーにとっては苦手の壁を乗り越える一番の燃料なのかもしれません。
偉そうに言語化のポイントなどと3つ挙げましたが、これらすべてを私が完璧にできているわけではなく、むしろその逆。今も修行中の身です。言語化でコミュニケーションをとってよりよいデザインを作っていけるよう、これからも精進していきます!