こんにちは、上野です。
先日、NRIグループ内でAWS re:Invent2021の振り返り勉強会がありました。せっかくなのでそこで発表した内容を本ブログにも残しておきたいと思います。
私はAPN Ambassadorとして今回発表された新サービスや新機能を紹介しました。網羅的なアップデート紹介はAWSさん公式の素晴らしい資料があったので、私独自の観点の紹介をしました。
アップデート内容を全部知りたいんだ。という方は是非こちらをご覧ください。
私が今年特に感じた特徴は「料金値下げ」と「よりビジネスにフォーカス」という2点です。
順に見ていきます。
料金値下げ
今年は多かったように思います。実際のアップデートを見ていきます。
AWS 無料利用枠のデータ転送量の拡大 — リージョンから 100 GB、Amazon CloudFront から 1 TB / 月
2021/11/26の発表なので、正確にはre:Inventの前なのですが、ほぼ同時期です。pre:Inventとも呼ばれますね。
どういうことなのか深堀りしてみましょう。
AWSではネットワーク通信量に応じて料金が発生します。アップデート前は以下の状態でした。
AWSに入ってくるインバウンド通信は基本的に無料ですが、AWSから外に出ていくアウトバウンド通信は有料となります。 アウトバウンド通信には一部無料枠があります。
※CloudFront⇒VPC(オリジン)は有料です。
次の通信量が発生していた場合、約14,000円/月の料金となります。
「前提」
- CloudFrontからダウンロード量:1TB/月
- CloudFront経由アップロード量:100GB/月
- EC2からのダウンロード量:100GB/月
「計算式」
(1000GB-50GB(無料枠))×0.114USD+
100GB×0.06USD+
(100GB-1GB(無料枠))×0.114USD
=125.586USD
今回のアップデートで無料枠が大幅に拡大されました。
先ほどと同じ前提(通信量)で、金額は約660円/月になります。約95%引きです。
「計算式」
(1000GB-1000GB(無料枠))×0.114USD+
100GB×0.06USD+
(100GB-100GB(無料枠))×0.114USD
=6USD
割引率の多い前提としたため特に大きな割引に見えますが、この恩恵を受ける利用者は多いかと思います。
何より、利用者は何もせずこの値引きの恩恵を受けられるというのが素晴らしいですよね。
新しいS3ストレージクラスの登場&値引き
Glacier Instant Retrievalという新しいストレージクラスが登場し、S3 GlacierがS3 Glacier Flexible Retrievalという名前に変更されました。
以下表の赤字部分がアップデート部分となります。東京リージョンの前提です。標準クラスの割引はありませんでしたが、他一部のストレージクラスを利用している場合は、12月分より自動値引きとなります。
Amazon EBS Snapshot Archive
EBSスナップショットの低額オプションが出ました。
みなさま、スナップショットをリストアした経験はありますでしょうか?特に本番環境であれば、取ってはいるけどリストアは経験無しということも多いかと思います。要件のために取得しており、使うことはほぼない。であれば安いほうが嬉しいですよね。
ということで今回の機能、EBS Snapshot Archiveです。通常のスナップショットの1/4の価格で保存可能です。
ただし、リストアには24~72 時間時間がかかるため、RTO(Recovery Time Objective)には注意しましょう。また、通常のスナップショットにはかからないリストア料金も発生します。主に長期間保存の用途になります。
値下げは積極的に活用すべきか?
値下げアップデートの紹介は以上です。少し疑問が出るとすると、「値下げは積極的に活用すべきか?」という点です。というのも、我々のようにAWS上でシステムを構築してお金をいただいている場合、AWS利用料もお客様からいただくことになります。利用料が下がるということは、我々の売上も下がるということです。
私は積極的に活用すべきと考えています。本来我々はお客様のビジネス活動に貢献すべきなので、こういった値引きを活用して信頼をいただき、ビジネス活動に貢献できる次なる活動に活用すべきということです。
特に利用料コストを気にされているお客様については、積極的に導入していきましょう。
よりビジネスにフォーカス
今回のアップデートの中で、「機械学習の民主化」「サーバーレス」「ローコード・ノーコード」という特徴があったかと思います。これらはいずれも、AWS利用者がよりビジネスに集中できるようにという目的があるのかなと私は感じました。
機械学習の民主化
CEO Adam Selipskyの 基調講演で「Democratizing machine learning(機械学習の民主化)」というキーワードが出ていました。
誰もが機械学習を活用できるように。という世界を目指すということですね。機械学習を使用したい!は本来の目的ではなく、ビジネスに活用したいというのが目的です。以下は例です。
- おすすめ商品を提示して売上UPを狙いたい
- 不正自動検知を行って、詐欺や不正利用を防ぎたい
- アクセス数のピークを予測して、機会損失を防ぎたい
- AIチャットを活用して、顧客の利便性を向上したい
少ない知識で高速に活用できるようなサービスが増えてきており、今回のre:Inventでもその観点のサービスが出ていました。
元々機械学習を活用する場合は、機械学習の知識や環境の準備等、導入の敷居が高かったです。 その敷居を下げるサービスがどんどん発表されています。
今年のre:Invent ではAmazon SageMaker Canvasが発表されました。
詳細は↑の公式ブログがわかりやすいのでここでは割愛します。簡単に言うと、データだけ用意し、予測したい項目を選ぶだけで機械学習のモデルを作成できちゃうというサービスです。私も触ってみましたが、画面で項目を選ぶだけで簡単にモデルを作成できました。
機械学習を勉強できるサービス
Amazon SageMaker Canvasのようなサービスでより機械学習を簡単に導入できるようになりましたが、知識がゼロだと出てくる言葉も理解できず導入しにくいといった場合もあるかと思います。AWSでは機械学習を勉強できるようなサービスも出てきており、今年はAmazon SageMaker Studio Labが発表されました。 私も触ってみたブログ書いています。無料で環境を使用でき、学習コンテンツも用意されています。
こういったサービスで知識付けの支援も行い、より多くの人が活用できる世界を目指しているのかと思います。
サーバーレス
今年はサーバーレス系アップデートも多かったですね。改めてサーバーレスについてAWS Lambdaで復習です。
まずビジネス要件が発生します。ここではわかりやすく「オンラインショッピングの仕組みを作りたい!」としておきます。戦略や業務フロー、必要な機能をまずは整理して設計していくことになります。(DB等アプリケーション以外のリソースは省略しています)
EC2(≠サーバーレス)の場合、次のようにネットワーク、OS、ミドルウェアの設定を行い、その上でアプリケーション(プログラムコード)を稼働させることになります。
これがLambda(=サーバーレス)になる場合、実行環境はAWSによって管理されるため、プログラムコードを書くところから開始できます。利用者の管理範囲を、ビジネス部分(やりたいこと)に集中できるというのがポイントです。
運用面においても、EC2の場合はOSパッチの適用、拡張性の管理(台数、インスタンスタイプ)、起動中にコスト発生(アプリが実行されなくても発生)という負荷がかかります。
Lambdaの場合は作成したプログラムにの管理を行えばよく、コストも実行分のみ発生します。
すべてのアプリケーションをLambdaにすべきだ!というわけではありませんが、可能なものはよりサーバーレスに寄せて、ビジネスに直接的に関わらない部分の管理負荷を下げていったほうが良いでしょう。
今年のサーバーレスアップデート
前置きが長くなりましたが今年の発表内容です。3つのサーバーレスアップデートが基調講演で発表されました。(Kinesisはオンデマンド機能)
Amazon Redshift、Amazon EMR、Amazon MSKにサーバーレス機能が追加されました。
Redshiftを例に紹介します。基本的な考え方はLambdaと同様です。通常の(サーバーレスでない)Redshiftの場合、ノードのタイプや数を指定して起動し、これらの管理をする必要がありました。
これらのノード管理がサーバーレスに変わることでAWS管理となります。利用者はノードの管理負荷を下げてデータ分析業務に集中することができます。
他のサーバーレス機能も基本的な考え方は同様で、利用者の管理負荷を下げるという部分が大きいです。
ローコード・ノーコード
Amazon のCTO Werner Vogelsの基調講演で、AWS Amplify Studioが発表されました。
FigmaというブラウザのWEBデザインツールを使用して、Reactのコードを生成できる機能ですが、 フロントエンドが素人な私でも、次のような感じでデザイン作成からコード生成まで実行することができました。
※画像はNRIグループAmbassadorsのモノをAmbassadorsページからお借りしました。
さすがに私のような素人だけでは本番運用まで持っていくには難しそうですが、コード作成の負荷を下げるという目的や、デザイン検討時に共同でイメージを作る場合には活躍できそうです。パブリックプレビュー段階ですので今後にも期待です。
Amplify Studio以外にもGlue Studio、Sagemaker Studio、Step Functions Workflow Studio、EMR StudioといったStudioという名前の付く機能が増えています。
中でもStep Functions Workflow Studioは、GUIでワークフローを作成できるという個人的にも好きな機能です。
サーバーレスでプログラムコード以外の管理をAWSにというアップデートもありつつ、プログラムコードの生成部分にもAWSが入ってきて、より利用者の負荷を軽減してくれるようになっています。今後も、利用者の負荷を下げ、ビジネスに集中できるような新機能、アップデートが多く出てくると思います。楽しみですね。
まとめ
思ったより長くなってしまいました。最初に紹介した値下げも、利用者のコスト管理負荷を下げるという意味では、やはり「よりビジネスに集中できるように」という観点になるのかもしれません。よりビジネスを加速させるためにも、こういった便利なアップデート情報に今後もキャッチアップしていきたいと思います。今回紹介した以外にもたくさんのアップデートが出ており、より実用的なものもありそうなので、時間があるときに検証してみたいと思います。