
最近、娘が「1人でやる」と言うことが増えてきて、学校のお迎えの帰路であと何回一緒に帰れるのか、と思い悲しみに暮れる毎日を過ごしている志水です。今日はそんな帰路、いやKiroについての話です。
はじめに
「EC2について教えて」とKiroに聞いても、一般的な説明しか返ってこない。AWS試験に出るポイントが知りたいのに...
実は、Kiroはマークダウンファイルを数行書くだけで、AWS試験対策、1on1サポート、カンファレンス分析など、あなたの業務に特化した専門エージェントに変身します。
この記事では、ステアリングファイルとAgent Hooksを使って、3つの専門エージェントを作る方法を紹介します。コーディング以外でのKiro活用で、あなたの仕事がもっと効率的になります。
ステアリングファイルとAgent Hooksで専門エージェントを作る
「AIエージェントを作るなら、Strands AgentでコーディングしてBedrock AgentCoreにデプロイしないといけない」と思っている方も多いかもしれません。確かに、外部APIとの連携や複雑なワークフローが必要な場合はBedrockのような本格的なプラットフォームが適しています。
しかし、知識ベースの専門性や対話スタイルのカスタマイズであれば、Kiroのステアリングファイル機能なら開発やデプロイ作業は一切不要です。マークダウンファイルを数行書くだけで、すぐに専門エージェントが完成します。
ステアリングファイルとは
ステアリングファイルは、Kiroに永続的な知識や指示を提供するマークダウンファイルです。.kiro/steering/ディレクトリにマークダウンファイルを配置するだけで設定でき、Kiroの振る舞いや回答スタイルをプロジェクトやチームの要件に合わせてカスタマイズできます。チーム共通のコーディング規約、プロジェクト固有のルール、使用技術のガイドライン、レビュー基準などを設定することで、Kiroがプロジェクトの文脈を永続的に記憶し、一貫性のあるサポートを提供できるようになります。
本記事では、ステアリングファイルをさらに発展させて、特定分野に特化した専門エージェントを作る方法に焦点を当てます。コーディング支援だけでなく、AWS試験対策、マネジメント支援、カンファレンス参加支援など、様々な分野でKiroを活用できます。
Agent Hooksによる自動化
Agent Hooksは、ファイル保存やボタンクリックなどの特定のイベントをトリガーにKiroを自動実行する機能です。コマンドパレットから「Open Kiro Hook UI」を選択して設定でき、例えば*.mdファイルの保存時に「保存したファイルの内容を要約して」といった処理を自動実行できます。学習ノート保存時の理解度チェック、README更新時の文書品質チェック、設計書保存時のレビューポイント提示、議事録保存時のアクションアイテム抽出など、様々な場面で作業効率を向上させることができます。
ユースケース1:AWS試験勉強補助エージェント
AWS認定試験の勉強で、こんな経験はありませんか?「EC2について教えて」と聞いても、一般的な説明しか返ってこない。試験に出るポイントが分からない。苦手分野を把握できない。
AWS試験勉強補助エージェントを設定すると、これらの問題が解決されます。
普通のKiroとの違い
普通のKiroに質問した場合
「EC2のインスタンスタイプについて教えて」 → 一般的なEC2の説明 → 基本的なインスタンスタイプの紹介 → 実務での使い分け
AWS試験勉強エージェントに質問した場合
「EC2のインスタンスタイプについて教えて」 → 試験でよく出る比較ポイント → 間違えやすい選択肢の解説 → 関連する他のサービスとの組み合わせ問題 → 覚えるべき具体的な数値や制限
学習進捗の自動管理
ステアリングファイルを設定することで、学習体験が劇的に向上します。
まず、オリジナル試験問題の自動作成が可能になります。AWSドキュメントと試験ガイドを元に本格的な問題を生成し、実際の試験形式に合わせた選択肢を作成してくれます。難易度や出題分野を指定することで、自分のレベルに合った問題練習ができます。
さらに、苦手分野の詳細分析により効率的な学習が実現します。解答した問題を自動で分析し、正答率の低い分野を特定してくれます。間違いのパターンから弱点を診断し、どの分野を優先的に学習すべきかを具体的に提案してくれるため、闇雲に勉強する必要がありません。
学習計画も個別に最適化されます。試験日までの残り日数を考慮し、分野別の配点に基づいて重要度を設定してくれます。弱点克服のための具体的なアクションプランも提示されるため、迷うことなく学習を進められます。
復習サイクルも効率化されます。間違えた問題の詳細解説が自動で蓄積され、関連する問題も提案してくれます。理解度に応じて復習のタイミングも調整されるため、記憶の定着率が向上します。
試験問題作成と分析の体験
問題作成の依頼例
「VPCとネットワーキングについて、SAP-C02レベルの複数選択問題を3問作成して」 → AWSドキュメントを参照した本格的な問題 → 実際の試験と同じ形式・難易度 → 詳細な解説と関連サービスの説明付き
学習分析の体験例
「今週解いた10問の結果を分析して、弱点を教えて」 → 正答率の分析(全体70%、ネットワーク分野40%) → 間違いパターンの特定(CIDR計算、VPC Peering制限) → 優先学習分野の提案(ネットワーク分野を重点的に) → 具体的な学習アクション(PrivateLinkの仕組み復習)
自動化による学習効率向上
Agent Hooksを設定することで、学習作業の多くが自動化され、より効率的な勉強が可能になります。
特に便利なのが問題作成時の自動図解生成機能です。新しい問題を作成すると、複雑なAWSサービスの関係性を分かりやすいアーキテクチャ図として自動生成してくれます。文字だけでは理解しにくい概念も、視覚的に補完されるため理解が深まります。
また、学習ノートを保存するたびに自動分析が実行されるのも大きなメリットです。保存した学習内容から理解度を自動判定し、弱点に関連する過去問題を提案してくれます。次に取り組むべき学習分野も具体的に推奨されるため、学習の方向性に迷うことがありません。
ユースケース2:1on1議事録作成エージェント
1on1を実施した後、「今回の1on1は適切に進められたのか?」「事前に準備した話題をちゃんと話せたか?」「次回は何を重点的に話すべきか?」と振り返りたくなることはありませんか?
1on1議事録作成エージェントを設定すると、録音データから1on1の質を客観的に分析し、次回に向けた改善点を明確にできます。
普通のKiroとの違い
普通のKiroに相談した場合
「会議の書き起こしファイルから1on1の要約を作成して」 → 基本的な内容要約 → 話者識別なしの文字起こし整理
1on1議事録作成エージェントに相談した場合
「会議の書き起こしファイルから1on1の要約を作成して」 → 過去の1on1履歴から関連する話題を自動抽出 → 事前準備した話題と実際の会話内容の照合分析 → 話せた項目と未消化項目の明確な分類 → メンバーの成長パターンを過去データから分析 → 1on1の質と効果の客観的評価 → 次回1on1で優先すべき話題の提案
体験できること
このエージェントを使うことで、AIが過去の1on1データを活用した高度な分析を行えるようになります。
過去の1on1履歴から関連する話題を自動で抽出し、「3ヶ月前に話したキャリア目標の進捗はどうか」「前回未消化だった技術的な悩みは解決したか」といった継続性のある対話を支援します。事前に準備したメモと実際の会話内容を詳細に比較し、重要な話題が適切にカバーされたかを評価してくれます。
さらに、メンバーの成長パターンを過去データから分析し、「このメンバーは技術的な話題により関心を示す傾向がある」「モチベーション低下のサインが見られる」といった洞察を提供します。相手がどの話題に興味を示したかも明確になるため、より効果的な1on1が実現できます。
継続的な1on1の改善にも大きく貢献します。話し切れなかった項目は次回へ確実に引き継がれ、過去の1on1パターンから「このメンバーには月初の1on1が効果的」といった具体的な改善提案も受けられます。メンバーとの関係性構築の進捗も数値化され、マネジメントスキルの向上に直結します。
ユースケース3:カンファレンス分析・要約エージェント
開催まであと2ヶ月を切っている、re:Inventのような海外カンファレンスに参加した後、「英語の講演内容を正確に理解できたか不安」「膨大な情報をどう整理しよう?」「社内にどう共有すれば価値が伝わるだろう?」と悩むことはありませんか?
カンファレンス分析・要約エージェントを設定すると、英語の音声書き起こしデータから正確な和訳と実用的な知識を抽出し、チームでの共有や実際の業務に直接活用できる分析レポートを作成できます。
普通のKiroとの違い
普通のKiroに相談した場合
「カンファレンスの音声データを要約して」 → 一般的な要約 → 基本的な内容整理
カンファレンス分析・要約エージェントに相談した場合
「カンファレンスの音声データを要約して」 → 英語講演の正確な和訳と文脈理解 → 技術・戦略・教育講演に特化した専門分析 → 音声認識エラーの文脈的修正 → チームや業務に活用可能な実践的要約 → 複数講演の統合による相乗効果分析
体験できること
英語講演の理解が格段に向上します。音声認識ツールで「Lambda」が「Lamda」と誤認識されたり、「Kubernetes」が「Cooper Nettis」と変換されてしまうような問題を、文脈から正しい技術用語に修正してくれます。さらに、技術用語や専門表現を正確な日本語に翻訳してくれます。単なる機械翻訳ではなく、カンファレンスの文脈を理解した自然な和訳が得られるため、内容の理解度が大幅に向上します。
高品質な専門分析も可能です。AWS技術用語の正確な認識・修正を行い、技術講演なら実装のポイント、ビジネス講演なら導入時の注意点といった具合に、講演の種類に応じて最適な分析を行います。「今すぐ試せる手順」や「チームで検討すべき課題」といった実践的な情報も整理してくれます。
参加目的に応じたカスタマイズ分析も大きな特徴です。事前に「コスト削減のためのAI活用事例を探している」「マイクロサービス移行の課題解決策を知りたい」「新サービスのロードマップ情報を収集したい」といった参加目的を設定しておくと、膨大な講演内容の中から目的に関連する部分を重点的に抽出してくれます。
例えば、「AI/ML導入検討」という目的を設定した場合、技術講演では実装の難易度や必要なスキルセット、ビジネス講演では導入効果や成功事例、コスト面では料金体系や最適化のポイントといった具合に、同じ講演でも目的に応じて異なる視点で分析されます。
実用的な価値の抽出にも優れています。単なる内容要約ではなく、実際の業務やプロジェクトに応用できる形に変換し、複数講演の統合分析による相乗効果を発見します。すぐに試せる実装ガイドや具体的なアクションプランも提供されます。
自動化による効率向上
特定のファイル名パターンを設定することで、書き起こしデータの自動検知と処理が可能になります。
ファイル名に「transcript」が含まれる音声書き起こしファイルを開いた瞬間に、カンファレンス分析エージェントが自動で起動します。「このファイルはカンファレンスの書き起こしデータのようですね。英語の誤認識修正と専門分析を開始しますか?」といった具合に、ファイルの内容を自動判別して最適な処理を提案してくれます。
さらに、Agent Hooksと組み合わせることで、書き起こしファイルを保存するたびに自動で要約処理が実行されます。長時間の講演を複数回に分けて書き起こした場合でも、各ファイル保存時に自動で分析が行われ、最終的に全体を統合した包括的なレポートが生成されます。
運用のコツとトラブルシューティング
ステアリングファイルの3つの適用方式
1. 常時適用型(デフォルト)
ファイル冒頭の設定(フロントマター)なしで、すべての会話に自動的に適用されます。明示的に設定する場合はinclusion: alwaysを記載します。チーム共通のコーディング規約や基本的なルールに適用します。
--- inclusion: always ---
2. 条件適用型(inclusion: fileMatch)
特定のファイルパターンにマッチした時のみ適用されます。例えば、README編集時のみ文書作成ガイドラインを適用する場合に使用します。
--- inclusion: fileMatch fileMatchPattern: 'README*' --- # README作成ガイドライン プロジェクトの概要を分かりやすく説明する
3. 手動適用型(inclusion: manual)
必要な時だけチャットで #ステアリングファイル名 と入力して呼び出します。複数の専門エージェントを使い分けたい場合や、時々だけ特定の専門性が必要な場合に適しています。
--- inclusion: manual ---
ステアリングファイルの作成・管理・更新方法
初回作成のコツ:Kiro自身に作ってもらう
ステアリングファイルの作成は最初が一番大変です。要領がつかめない場合は、まずKiro自身に作成してもらうのが効果的です。
「AWS SAA試験の勉強をサポートしてくれるエージェントを作りたいです。 試験に特化した問題作成、苦手分野の分析、学習計画の提案ができるような ステアリングファイルを作成してください」
このように具体的な要件を伝えると、Kiroが適切なステアリングファイルを自動生成してくれます。生成されたファイルを基に、必要に応じて微調整を行えば完成です。
効果的な管理方法
ステアリングファイルを長期的に活用するためには、適切な管理が欠かせません。ファイル名はaws-study-agent.mdのように用途が一目で分かるものにしておくと、複数のエージェントを使い分ける際に混乱を避けられます。
エージェントの性能を維持するには、実際の使用感に基づいた継続的な改善が重要です。期待通りの結果が得られない場合、役割定義や提供サービスの記述を見直すことで、より精度の高いエージェントに育てることができます。また、設定変更の履歴をバージョン管理システムで残しておけば、問題が発生した際の原因特定や設定の復元がスムーズに行えます。チーム内でエージェントの設定を共有し、お互いの使用体験をフィードバックし合うことで、組織全体のエージェント活用レベルが向上していきます。
よくある問題と対処法
ステアリングファイルを使い始めると、いくつかの典型的な問題に遭遇することがあります。
最も多いのが「ステアリングファイルが適用されない」という問題です。まずはファイルパスと適用方式の設定を確認してください。manual設定の場合は、チャットで#ステアリングファイル名と正しく呼び出しているか再確認が必要です。fileMatchの場合はファイルパターンが適切に設定されているか、alwaysの場合はファイルが正しいディレクトリに配置されているかを確認しましょう。
「期待した専門性が発揮されない」という問題も頻繁に起こります。この場合、役割定義をより具体的に記述し直すことが効果的です。提供サービスや専門分野の記述を詳細化し、実際の使用例を設定に追加することで、エージェントの理解度が向上します。
Agent Hooksが動作しない場合は、トリガー条件の設定を見直してください。Hook UIでの設定内容を再検証し、必要に応じてログを確認してエラーの原因を特定することが重要です。
チーム内での活用方法
専門エージェントの真価は、チーム全体で活用することで発揮されます。
効果的なアプローチとして、有効な設定をテンプレート化して共有することから始めましょう。一人が作成した優秀なエージェント設定を、チーム全体で活用できるようにすることで、全体の生産性が向上します。さらに、各メンバーの専門分野に応じたエージェントを作成することで、個人の専門性を組織の資産として蓄積できます。
継続的な改善も重要です。定期的な改善会議でエージェントの設定を見直し、使用体験を共有することで、より実用的なエージェントに育てることができます。新人研修でのエージェント活用方法指導も、組織全体のスキル向上に貢献します。
まとめ
Kiroはコーディングだけでなく、様々な専門分野で活用できる万能なAIエージェントです。ステアリングファイルとAgent Hooksを組み合わせることで、あなたの業務に特化した頼れるパートナーを作ることができます。
今回紹介した3つのユースケースを参考に、あなたの業務に合った専門エージェントを作ってみてください。ステアリングファイルの作成から始めて、徐々にAgent Hooksによる自動化も取り入れることで、Kiroの新たな可能性を発見できるはずです。
コーディング以外でのKiro活用で、あなたの仕事がもっと効率的で楽しくなります。まずは一つの専門エージェントから始めてみましょう!
