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    AWS What's Newを題材に情報共有と付加価値について考える

    本記事は  AWSアワード受賞者祭り  22日目の記事です。
    ✨🏆  21日目  ▶▶ 本記事 ▶▶  23日目  🏆✨

     こんにちは、佐々木です。
    AWSの公式サイトには、日々新機能やアップデートが公開される「AWS What's New」があります。
     クラウドを活用する立場にとって、最新情報をキャッチアップすることは業務品質にも直結する重要な活動です。しかし、個人としていくら情報収集に努めても、日々大量のアップデートが公開されるため、その把握には限界があります。そこで重要になるのが組織としての情報収集です。そして、その前段階として欠かせないのが、「情報をどのように組織(社内やコミュニティ)に共有するか」という視点です。

     本記事では、AWS What's Newを例に、情報共有のレベルを4段階に分類し、それぞれの効能や注意点、さらに翻訳ツールやAIを活用した効率的な情報収集方法について考えます。この記事が、情報共有と付加価値の在り方を考えるきっかけになれば幸いです。

    情報共有の4段階

    第1段階:そのまま伝える

     第1段階は、URLや公式文書、発表資料をほぼ加工せずに共有する段階です。
    例:Slackに「今日のアップデートはこちら」とリンクやスクリーンショットを貼る。

    今日のAWS What's New "AWS Lambda now supports GitHub Actions to simplify function deployment"
    https://aws.amazon.com/jp/about-aws/whats-new/2025/08/aws-lambda-github-actions-function-deployment/

    効能

    • 速報性が高い : 最短時間で情報を届けられる
    • 手間がほぼゼロ : 準備コストが限りなく低い
    • 情報の信頼性が担保される : 一次情報を直接共有できる

    注意点

    • 受け手依存 : 内容理解は受け手の時間とスキルに依存する
    • 優先度判断が難しい : どの程度重要なのか分かりにくい

     これだけ見るとあまり効果が無いように思えますが、そうとも言い切れません。例えば組織内のメンバーが全然アンテナをはっていない(情報収集をしていない)分野であれば、外部に情報があることを伝えるだけでも大きな効果を発揮します。新しい分野の情報収集時には、この段階でも十分です。

    第2段階:解説を加えて伝える

     ここから一歩踏み込み、概要や背景を簡単に説明して共有する段階です。
    公式の説明文を要約し、「これは何ができるようになったのか」「どんなユースケースに関係するのか」を短く添えます。

    例:

    AWS LambdaとGitHub Actionsの統合により、GitHub ActionsからLambdaのデプロイが簡単になりました。今までであれば、AWS CLI やTerraform/SAM で手動 or IaCによるデプロイ部分を実装する必要がありました。今回の対応で、パラメータに追記するだけでデプロイが可能になります。

    効能

    • 理解の即時化 : 受け手が数秒で「自分に関係ある/ない」を判断できるため、情報選別が早くなる
    • 活用の想像がしやすい : 自分の業務やプロジェクトに当てはめて活用イメージを持ちやすくなる

    注意点

    • 要約力と対象に対する理解が必要 : 単に機能説明をするだけでは「解説」とは言えない
    • 知識と経験が前提 : 誤った評価は誤解を広げるリスクになる
    • 時間コスト : 第1段階よりも作成に時間がかかる

    この段階の情報共有ができるようになると、組織内の情報共有としては合格点でしょう。また、こういった形式で日々情報共有することにより、自分自身の理解もグッと深まることは間違いがないです。

    第3段階:自分の評価・感情を含めて伝える

    さらに踏み込み、「自分なりの評価」や「どんな現場に刺さるか」「自社ではどう活用できそうか」などを付け加えて共有する段階です。

    例:

    AWS LambdaとGitHub Actionsの統合により、GitHub ActionsからLambdaのデプロイが簡単になりました。これは、めっちゃ嬉しいアップデートです!!
    今までであれば、AWS CLI やTerraform/SAM で手動 or IaCによるデプロイ部分を実装する必要がありました。今回の対応で、パラメータに追記するだけでデプロイが可能になります。
    実際どこまでやってくれるかは検証必要ですが、かなり有益そうです!!

    効能

    • 意思決定に直結 : 単なる事実以上の「判断材料」になる
    • 差別化された情報価値 : 自分の経験や知見が加わることで唯一性が生まれる
    • 伝達性が高い : 感情面(嬉しい/悲しいなど)を加えることで、情報の重要度・評価がより伝わりやすくなる

    注意点

    • 主観の影響が大きくなる:個人の主観が組織に与える影響が大きくなる
    • (それ以外の注意点は、第2段階と同じ)

     第3段階の伝え方は、諸刃の剣の側面も持ちます。客観的な情報のみであれば、情報を見た受け手側の主体的な判断の側面が大きいです。一方で、初手で伝達者が否定的に伝えることにより、重要な情報もスルーされる危険性が高まります。つまり個人の主観の影響が、組織に大きな影響を及ぼすということです。
     しかしながら、ある程度の副作用はあるものの、今の時代の情報共有にはこの感情面の重要度が増しているのではと考えています。その理由は、後述します。

    第4段階:傾向をもとに、トレンドを伝える

    単一のアップデートを評価するだけでなく、過去・他サービスの類似事例と関連づけ、そこからAWSや業界の動向を予測して共有する段階です。

    例:

    SESのテナント隔離機能のリリース機能がアップデートされました。これを利用すると、特定のテナント(利用者)が質の悪い配信をしていたとしても、レピュテーションの低下はそこだけの影響に止められて、他の利用者には影響を与えないようになります。いわゆるノイジーネイバー問題の対応です。
    SQS Standard Queueにも、最近特定の利用者の利用頻度が高い場合の影響を下げるアップデートが発表されています。これらを考慮すると「AWSはノイジーネイバー問題への対応を進めている」という傾向が見いだせます。AWSの傾向から、マルチテナントSaaS向け機能の強化が、今後の成長分野になる可能性が高いです。

    効能

    • 戦略的視点を提供 : 単発情報では見えない方向性を提示できる
    • 先手を打てる : 今後必要になりそうな技術や準備の判断材料になる
    • 知識の広がり : 異なるサービス・事例の関連性を把握できる
    • 発信者の専門性強化 : 情報収集だけでなく分析力も評価される

    注意点

    • 予測の不確実性 : 外れる可能性もあるため、根拠や前提を明確にする必要がある
    • 調査量の多さ : 複数ソースを関連づけるため、調査・把握に時間がかかる
    • 誤解リスク : 因果関係ではなく相関関係に基づいた推測を事実と誤認されないよう注意

    情報共有方法の一覧

    段階 特徴 効能 注意点 時間コスト 影響度
    第1段階:
    そのまま伝える
    URLや公式文書を加工せず共有 ・速報性が高い
    ・手間がほぼゼロ
    ・一次情報の信頼性を担保できる
    ・受け手依存で理解度に差が出る
    ・優先度が分かりにくい
    第2段階:
    解説を加えて伝える
    概要や背景を簡潔に説明して共有 ・理解の即時化
    ・活用イメージ喚起
    ・要約力と対象理解が必要
    ・知識と経験が前提
    ・時間コスト増
    第3段階:
    自分の評価・感情を含めて伝える
    解説に加え、自分の経験や感情を添える ・意思決定に直結
    ・唯一性の高い情報
    ・感情面での伝達力向上
    ・主観の影響が大きい
    ・第2段階と同様の注意点あり
    中〜高 中〜高
    第4段階:
    傾向をもとにトレンドを伝える
    複数事例を関連づけ、業界やAWSの方向性を予測 ・戦略的視点を提供
    ・先手を打てる
    ・知識の広がり
    ・発信者の専門性強化
    ・予測の不確実性
    ・調査量が多く負荷大
    ・誤解リスク

    翻訳ツールとAI活用による効率化

     さて、ここまで読んで、情報共有をやってみようと思った人もいるでしょう。しかし、実際にやってみると想定以上に時間が掛かり、挫折してしまうケースもあります。そうならないように、効率的に情報収集・共有をするためのノウハウを、お伝えします。

    翻訳ツールの活用

     まず第一は、翻訳ツールの活用です。IT業界の場合、最新の情報は英語で提供されることが大半です。英語の勉強も兼ねて、自分で翻訳するというのも一つの手ではあります。ただ、その場合は時間がかかり、継続性が難しくなる可能性もあります。情報収集の場合はわりきって、翻訳ツールに頼るというのも有用です。

    翻訳ツールの活用

    • DeepL:技術文書にも強く、ニュアンスを保った翻訳が可能
    • Google翻訳:UIが軽く、URL貼り付けでページ全体を翻訳可能

    ポイント

    • 機械翻訳はあくまで「下書き」として利用し、重要な部分は原文で確認する
    • 専門用語やAWS特有の表現(例:provisioned concurrency, IAM role)を誤訳するケースがあるため注意

    ブログ等の公開情報であれば翻訳ツールを用いることは問題ないものの、非公開の情報を翻訳ツールにかける場合は注意が必要です。翻訳の際に、元情報をアップロードすることになります。その情報の取り扱いがどうなるのか、契約含めて十分確認してから行ってください。

    AIによる要約・解説支援

    ChatGPTなどの生成AIを使えば、英語記事を数秒で要約したり、特定のユースケースに合わせた解説文を作成できます。

    プロンプト例

    ここでは、AWSが発表するAWS What's Newの解説を行います
    あなたはAWSのソリューションアーキテクトならびにエバンジェリストとして、与えられたURLの発表内容を解りやすく解説してください。
    あなたの解説を読む読者は、下記の想定です
    ・AWSに対する基本的な知識は持っている
    ・日々のアップデートをできるだけ効率的かつ短期間に理解したい
    ・AWSの公式の発表の文章は、正直分かり辛いと思っていて、できるだけ平易な言葉で読みたい

    回答の形式は、次のものを含めてください
    ・アップデートの概要。サマリー形式で文章で説明
    ・これまでの実装方法との違い。表形式で重要な観点ごとに、発表前と発表後の違いをまとめる
    ・何ができるようになったのか。箇条書き+個別文章で説明。場合によってはコードサンプルも
    ・留意すべきポイント。表形式でまとめる
    ・まとめを文章で説明

    効能

    • 要約・翻訳・補足説明を一度に生成できる
    • 読者層や用途に合わせた説明を作り分けられる
    • 第2段階・第3段階の情報共有を効率化

    注意点

    • AIの説明はあくまで参考。誤りが混ざる可能性があるため、必ず公式ソースで検証する
    • 評価や感情は自分で加えることで、情報価値が高まる

    正しく指示すれば、生成AIであれば、次のようなまとめは簡単に作れます

     もちろん間違えている場合もあるので、質問や指摘をしていくと回答の精度をあげることができます。最近では私も、まず翻訳ツールでざっと内容を読み、その後に生成AIに掛けてその内容を深堀りします。必要に応じて、他のドキュメントも参照しますが、生成AIに出典を出すように指示しておけば、探す手間も省けます。
     今回、第3段階の感情面が大事になるかもと言った背景には、生成AIの進化があります。もう 第2段階の情報共有は生成AIで十分できるようになりつつあります。そうなると、人間が出せる付加価値の部分は何になるのか?私は今のところ、情報共有における人間の感情面の動きが重要になるのではと考えています。

    まとめ

     AWS What's Newを題材に、情報共有と付加価値について考えてみました。生成AIの発展で、情報の価値が変わろうとしています。そんな中で、効率的に付加価値を付けて情報を届けるということは何なのか、今後とも考えていく必要があります。
     現時点で間違いなく言えるのは、まだ生成AIにはそれぞれの組織にとって何に価値があるかの判断基準はなく、自分から能動的に貢献するということができないということです。その辺りにヒントがあるのではないでしょうか?

    執筆者 佐々木拓郎

    Japan AWS Ambassadors
    ワイン飲みながら技術書を書くのが趣味なおじさんです

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