
- はじめに
- なぜ「運用」の話をするのか
- 現場でよくある5つの課題
- システムごとに運用を設計すると、運用効率が下がる
- 標準的な運用基準を作成し、統一することで運用を効率化する
- 標準的な運用を統一して、課題にアプローチする
- 標準化を進めても、残る負荷はある
- 外部の監視サービスによる24/365運用への対応
- NRIネットコムの監視サービス
- おわりに
はじめに
先日開催された 内製開発Summit 2026にて、「内製開発を加速させるための運用設計」というテーマで登壇しました。本記事では、以下資料の後半、P.16以降の内容である内製開発のスピードを落とさないために、運用をどのように標準化し、仕組みとして整備していくべきかを記載しています。
なぜ「運用」の話をするのか

AWSの内製開発の話になると、多くの場合は技術選定に関心が集まります。どのAWSサービスを使うのか、どのようなアーキテクチャを構築するのか、そして新しいサービスをどう活用するのかといったテーマは、多くのエンジニアにとって関心の高い領域です。また、内製化の文脈でも、開発力を高めることや開発プロセスを改善することが議論の中心になることが少なくありません。
しかし、実際の現場では、システムを作った後の「運用」がボトルネックとなり、開発のスピードが低下してしまうケースが多く見られます。開発自体は順調に進んでいたとしても、運用の負荷が高い状態では、新しい機能の開発や改善活動に十分な時間を割くことができません。
そのため、内製開発を本当に加速させるためには、開発の仕組みだけでなく、運用のあり方そのものを見直す必要があります。本記事では、運用をどのように設計すれば、開発スピードの向上につながるのかという視点で整理していきます。
現場でよくある5つの課題

以下のような課題が重なると、運用対応に多くの時間が取られてしまい、本来取り組むべき改善活動や新しい開発に手が回らなくなります。結果として、内製開発のスピードそのものが低下してしまいます。
アラートが多く疲弊する
監視設定が適切に整理されていない場合、必要以上に多くのアラートが発生します。その結果、運用担当者は大量のアラート処理に追われ、日々の対応だけで時間を取られてしまいます。 本来対応すべき重要なアラートを見極めることが難しくなり、運用負荷が高まる原因になります。
対応判断が人に依存する
障害対応の判断が特定の担当者に依存してしまうケースも多くあります。経験のある担当者に判断が集中すると、対応が属人化し、その担当者が不在の際には対応が遅れてしまう可能性があります。
夜間・休日対応による負担
システムを運用している以上、夜間や休日にも障害が発生する可能性があります。運用体制が整備されていない場合、運用担当者の負担が大きくなり、長期的な運用体制の維持が難しくなることがあります。
セキュリティ設定のばらつき
システムごとに設定方法が異なる場合、セキュリティ設定の抜け漏れが発生しやすくなります。その結果、システムごとにセキュリティレベルがばらつき、組織全体としてのセキュリティ品質を維持することが難しくなります。
組織・ベンダー間で連携が取りづらい
システムごとに異なる運用ルールが存在すると、組織やベンダーをまたいだ際に役割分担や責任範囲が分かりづらくなります。その結果、障害発生時のコミュニケーションがスムーズに進まないケースもあります。
システムごとに運用を設計すると、運用効率が下がる

こうした課題の背景としてよく見られるのが、システムごとに個別の運用設計が行われているケースです。例えば、システムAはベンダーAの運用基準、システムBはベンダーBの運用基準、システムCは別の運用ルールといった形で、それぞれ異なる運用方法が採用されている状況です。
このような状態では、監視項目やアラートのしきい値が統一されず、システムごとにばらばらの運用が行われることになります。結果として、アラートの量や対応方法にもばらつきが生まれます。
また、障害が発生した際の対応手順も統一されていないため、対応の判断に時間がかかることがあります。担当者によって判断基準が異なる場合、対応のスピードや品質にも差が生まれてしまいます。
このような状況では、運用品質が安定せず、運用効率も向上しません。組織として安定した運用を実現するためには、個別最適ではなく、組織全体での最適化という視点が必要になります。
標準的な運用基準を作成し、統一することで運用を効率化する

この課題を解決するために重要になるのが、標準的な運用基準を作成し、それを組織全体で統一するという考え方です。
まず、組織として共通の運用標準を定義します。例えば、監視やアラートの基準、障害対応のフロー、セキュリティ設定などを整理し、組織としての基準を明確にします。
そして、その標準をすべてのシステムに適用します。ここで重要なのは、標準を定義するだけではなく、実際の運用で統一して適用することです。標準が存在していても、各システムが独自の運用を続けていては、効率化の効果は生まれません。
つまり、運用の「標準化」と「統一」はセットで考える必要があります。標準を作り、それを組織全体で適用していくことで、初めて運用効率の向上が実現します。
標準的な運用を統一して、課題にアプローチする

運用を標準化し、組織全体で統一すると、運用の状況は大きく改善します。
まず、監視やアラートの基準が整理されることで、不要なアラートが削減されます。その結果、運用担当者は本当に対応が必要なアラートに集中できるようになり、対応にかかる時間も減少します。
また、セキュリティの基準を共通化することで、組織全体で一定のセキュリティレベルを維持することが可能になります。システムごとの設定のばらつきや抜け漏れを防ぐことができるため、運用品質の安定にもつながります。
さらに、障害対応のフローを明確にすることで、対応判断の属人性が解消されます。誰が対応しても同じ判断ができるようになり、対応スピードと品質が安定します。
このように、運用を標準化し統一することで、運用品質と運用効率を組織として安定させることができます。そして、運用負荷が軽減された分、開発や改善活動により多くの時間を割くことができるようになります。
監視基盤

標準的な運用を実現するためには、単に運用ルールを定めるだけでは不十分です。重要になるのは、組織全体のシステム状況を横断的に把握できる監視基盤を整備することです。
システムやAWSアカウントごとに監視画面が分かれている状態では、障害が発生した際にどのシステムが影響を受けているのかを把握するまでに時間がかかります。特にマイクロサービスやマルチアカウント環境では、複数のシステムが連携して動作しているため、単一のシステムだけを見ても全体の状況を把握することができません。
そこで重要になるのが、横断的な可視化です。Amazon CloudWatchのCross-account observabilityを活用することで、複数のAWSアカウントに分散しているログやメトリクスを一元的に集約し、システム全体の状態を一つの画面で確認できるようになります。
このような監視基盤を整備することで、システム間の相関関係を把握しやすくなり、障害の影響範囲を迅速に特定できるようになります。結果として、原因特定までの時間を短縮し、運用負荷の低減につなげることができます。横断的な監視基盤は、運用を標準化していくための重要な土台となります。
標準リソースの自動展開

運用の標準化を進めるうえでもう一つ重要なのが、標準を「守らせる仕組み」を作ることです。ガイドラインやドキュメントだけで運用を統一しようとしても、時間が経つにつれて設定のばらつきが生まれてしまうことがあります。
そこで、標準リソースを自動的に展開する仕組みを導入します。例えば、AWS Control TowerやAWS Service Catalogを活用し、AWSアカウントを作成する際に、必要なログ取得設定やセキュリティ設定を自動的にデプロイする仕組みを構築します。
具体的には、AWS ConfigやAWS Systems Manager などの標準的な運用リソースを、アカウント作成と同時に自動展開するようにします。こうすることで、新しいアカウントが作成された場合でも、最初から運用基準を満たした環境を構築することができます。
このように仕組みとして標準を適用することで、個々の運用担当者の努力に依存することなく、継続的に運用品質を維持することが可能になります。つまり、人の運用で標準を維持するのではなく、仕組みによって標準を維持するという考え方です。
セキュリティ統制

セキュリティについても、組織全体で統制する仕組みが必要になります。マルチアカウント環境では、各アカウントごとにセキュリティ設定を個別に管理していると、設定のばらつきや抜け漏れが発生しやすくなります。
この課題を解決するためには、AWS OrganizationsとAWS Firewall Managerを利用することで、AWS WAFやAWS Network Firewallなどのセキュリティ設定を中央から管理し、すべてのアカウントに適用することができます。
このような仕組みを導入することで、セキュリティ設定の抜け漏れを防ぐことができます。また、各システムごとに個別に設定を行う必要がなくなるため、運用のばらつきも解消されます。
結果として、組織全体として求められるセキュリティ基準を確実に維持できるようになります。マルチアカウント環境においては、システム単位ではなく、組織全体でセキュリティを管理するという考え方が非常に重要になります。
標準化を進めても、残る負荷はある

ここまで説明してきたような取り組みによって、運用は大きく効率化されます。監視の最適化や対応フローの標準化により、日々の運用負荷を確実に下げることができます。
しかし、ここで一つ現実的な課題があります。それは、運用の負荷を完全にゼロにすることはできないという点です。
どれだけ運用を標準化しても、アラートが完全になくなることはありません。また、システムを運用する以上、24時間365日の対応が必要になります。夜間や休日に障害が発生する可能性もあるため、その対応体制を維持する必要があります。
つまり、運用を効率化することはできても、人の負荷そのものが完全になくなるわけではありません。標準化によって運用負荷を減らすことはできても、運用業務そのものは残り続けるのです。
そのため、社員のリソースをどこに集中させるべきかを考える必要があります。すべての運用を自社で担うのではなく、外部の力を活用することで運用負荷を軽減し、社員のリソースをビジネス成長に直結する領域へ集中させるという考え方も重要になります。
外部の監視サービスによる24/365運用への対応

従来の運用では、アラートの監視や一次対応、切り分け、通知といった業務をすべて社内の運用担当者が担うケースが多くありました。その結果、24時間365日の監視体制を維持するために、多くの人的リソースが必要になります。
そこで、外部の監視サービスを活用するという選択肢があります。監視業務を外部に委託することで、アラート監視や一次対応、初期切り分けなどの定型的な運用業務を外部に任せることができます。
これにより、社内の運用担当者はエスカレーション対応や影響範囲の判断、恒久対策の検討といった、より高度な判断が求められる業務に集中することができます。また、運用改善やアーキテクチャ改善といった活動にも時間を割くことができるようになります。
つまり、24時間の監視業務は外部が担い、社内の運用担当者は意思決定や改善活動に集中するという役割分担を実現することができます。
NRIネットコムの監視サービス

運用負荷をさらに下げるための選択肢として、外部サービスの活用があります。NRIネットコムでは、24時間365日の監視と障害対応に加え、運用の標準化まで支援する監視サービスを提供しています。
具体的には、24時間365日のアラート監視や一次対応、必要に応じたエスカレーション対応、さらには定型的な運用作業の実施などを行っています。また、運用基準の設計や改善支援など、運用の標準化を進めるための取り組みもサポートしています。
ここで重要なのは、このサービスが内製開発を代替するものではないという点です。夜間や休日の監視、定型的な運用業務を外部に任せることで、社内のエンジニアはアーキテクチャの改善や自動化の推進、サービス品質の向上といった、より価値の高い活動に集中することができるようになります。
つまり、この監視サービスは内製開発のスピードを落とさないための運用基盤としての役割を担っています。
NRIネットコムの監視サービスについて、詳しく知りたい方は以下をご参照ください。
おわりに
本記事では、内製開発を加速させるための運用という観点から、現場でよくある課題とその解決アプローチについて整理しました。
内製開発というと、どうしても技術選定やアーキテクチャの議論に注目が集まりがちです。しかし、実際の現場では、システムを作った後の運用がボトルネックとなり、開発スピードが低下してしまうケースも少なくありません。
そのため、内製開発を継続的に進めていくためには、開発の仕組みだけでなく、運用の設計を見直すことが重要になります。特に、システムごとに個別の運用を設計するのではなく、組織全体として運用基準を整備し、それを標準化・統一していくという考え方が重要です。
さらに、運用の標準化によって効率化を進めたとしても、24時間365日の運用対応など、人手が必要な業務は残り続けます。そのため、外部の力を活用しながら運用負荷を軽減し、社内のエンジニアがより価値の高い業務に集中できる環境を作ることも重要な選択肢の一つです。
運用は開発のスピードを落とすものではなく、開発を支える基盤です。運用を整備することで、エンジニアは改善や新しい開発により多くの時間を使えるようになります。
本記事が、内製開発を進めている方や、運用のあり方を見直したいと考えている方の参考になれば幸いです。